店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

2006.3

 

 

 

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3月1日(火) 曇のち雪

 これまで読んできた物語群における「どんでん返し」というヤツは、概ね爽快感を伴っていた。よしんば、その結果がマイナスであるにせよ、驚きをもって膝を打たせてくれるものだった。
 初めてだ。どんでん返しの連続であるにも関わらず「なんてこった」と、じっとり陰気な気分になるのは。
 ハリー・ボッシュ刑事シリーズ最新作、というか、絶版単行本が文庫でようやく復刊なった『エンジェルズ・フライト(マイクル・コナリー/著、古沢嘉通/訳、扶桑社ミステリー)』。マイノリティの人権を主張することで世間の耳目を集めていた弁護士が殺され、折から手がけていた訴訟の対象だった本署の連中に代わりボッシュのチームが任務に就く。しかし調査が進むにつれ元の事件の意外な真相が明らかになり、事態は人種差別、警察内部の腐敗、組織的な保身、またそれにつけこむいわゆる「人権屋」のあざといやり口、パワーゲームと化した裁判の裏側などなどといった泥沼の中へぐだぐだずぶずぶと沈んでゆく。シリーズにおいては常のことながら、悪を排除する組織に生まれる必要悪という矛盾に満ち充ちて、何とも言えず遣りきれない。
 それを熟知するゆえに他人に心の内を告げず孤高を貫いてきたくせに、それでも「仲間」への信頼を捨てきれないボッシュの、失望し落胆し苦渋をかみ締めてなお真実を求める意思に「なぁハリー、それでいいのかよ」と語りかけつつ行き着く先は…いや、分かってるんだけどね、この先のストーリーを先に読んでるから。よって、溜息をつかない男の代わりに、しみじみ嘆息するばかりだ。
 かくのごとく陰鬱な物語だが、謎解きの面白さと意外な展開は読み手を飽きさせず、終幕へ向かって力強く引き立ててゆく。タイトルに仕込まれた複数の意味も皮肉の利きっぷり鮮やか、上手いもんだぜコナリー!でもたまには陽気な話も書いてみたくならないか?


3月4日(土) 晴時々曇

 朝、戸口を出たら、眼前の庭に見慣れない鳥がいた。大きさと形はヒヨドリに似て、体の色模様は雲雀のようだが冠毛は無し、細めの嘴が黄色っぽく、ひょいひょいひょいと雪の上を跳ねる仕草が道化ていて可愛い。が、パジャマ姿を理由に出しぶる相方に見せようと玄関で呼ばわってるうちに飛び去ってしまった。しまった、直接見せるよりカメラを取って貰えば良かったんだな。
 出社してからWebで調べたら、ノハラツグミという鳥らしい。日本には迷鳥として訪れるのだそうだ。平凡な朝が思いがけず希少なものになっていたのだな。

 録るだけ撮って放置していた『仮面ライダーカブト』を一気に鑑賞。
 実は前シリーズ『響鬼』後半のグダグダぶりの物すごさに、もう特撮からは足を洗おうと思っていたのだ。前半で組み上げた設定から状況からキャラクター描写まで全てをぶっ壊したあの状態ときたら、『クウガ』や『アギト』の最終回の比じゃなかったものな。
 しかし友人知人に「いや、結構面白いって」「ものは試しだ」「つかクウガは最終回だけしか観てないってオマエそれ何」「今からでも遅くない、貸してやるから全部観れ」と、何をプッシュされてるんだか分からん勧め方をされてチャレンジしてみることに。
 うん、なかなかイケてますなこれ。
 傍若無人にカッ飛んだ主人公の性格も、不愉快レベルの一歩前で上手く留まっているし、謎の配置も上手に散らしてある。何より、加速して戦うシーンの特撮がカッコイイ。いや、もちろん真面目に物理法則を考えると無理があるんだけど、例えば雨の雫が空中で静止する中で、敵とライダーのみが闘いを繰り広げるってのは「速さ」の説得力が理屈抜きに強くなってる。
 これはまた続けて観なくては、だなあ。後半でいきなり減速しないことを祈りながら、ではあるけれど。


3月5日(日) 晴時々曇

 ヒロツさんのチャットで楽天丸さんに教えてもらい、同名のゲーム原作の映画『サイレントヒル』のサイトを観にいく。ひと目見てドキリ、単純だけど効果的だなこのイメージは。『トワイライトゾーン』で同じネタがあったけど、子供騙しと笑いながら生理的に引かされてしまうものがある。
 雰囲気は極上。見捨てられ朽ちて霧に閉ざされた街の冷気まで感じ取れるような絵面が、ゲームの世界がそのまま実写になった印象でファンとしては嬉しい限り。もちろん、オリジナルがビジュアル面を作りこんでいたゆえのことではあるけれど、メディアミックスでは往々にしてここらがお楽しみの足を引っ張るもの、この地続き感は稀少では。
 シナリオは、ゲーム1作目をベースにしていろいろ足し引きしているようだ。原作どおりのキャラはアレッサとダリル、それにシビルというところか。娘の名前もシャロンだし、家族構成も違う。
 つか、探しに行くのが女親ってのはどうなのかなという気がしないでもない。インドア派の文弱中年男が、およそ有り得ない状況に混乱しながら、しかも生さぬ仲の子供を探してひょろひょろ歩くってとこがポイントだったと思うのだよね。母親と子供という図式になるとありがちになるし、何よりイザって時の強靭さが段違い、クリーチャー薙ぎ倒しまくって違和感ないなんてオチになっちまいそうだ。マルチエンディングにゃ出来ないんだから、せめてあの哀感を帯びた恐怖を終幕まで持って行ってほしいな。
 ところでこの作品『ロード・オブ・ザ・リング』のボロミアことショーン・ビーンが出演してる。多くの映画で悪役やってる彼だが、本作では父親役らしい。おもいっきりアウトドア系つーか一歩間違うとバーバリアンになりそうなご面相の彼が、異形まみれの世界をどんな調子で往くのか楽しみなところだ。えーと、できれば彼だけUFOエンドを!<無理


3月7日(火) 晴

 『手紙と秘密(キャロリン・G・ハート/著、長野きよみ/訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)』読了。
 第二次大戦のさなか、アメリカの田舎町で起きた殺人。興味本位の噂と偏見にまみれ貶められてゆく死者、先入観もて追われる容疑者、わずか13歳の新聞記者が真っ直ぐな視点で事件を追う…という設定だけだと「少女探偵」もののジュブナイルのようだが、あいにく本編はいっそ地味なほどにリアル志向。ヒロインによる劇的な謎解きは無く、犯罪者を向こうに回した活躍の場が与えられるでもない。むしろ無力に状況に流され、並行して発生する家庭の事情に心悩ませ、それでもと書いた被害者追悼記事のために陰湿な苛めにさえ遭い涙するしかない。
 とはいえ、それは周囲の大人たちとて同じようなもの。それゆえに、大勢が安易なゴシップに飛びつく中で己を保ち冷静に思考する少数派が実にじつに格好いい。わけても言葉少なに主人公を励まし、行く道を示してくれる編集長のシブさは特筆もの。年齢的には大人の身として、かくありたいと願うばかりである。
 のちにジャーナリストとして名を上げることになる主人公に著者のシリーズ・キャラクターの面影が重なるのもファンとしては愉しい。ただ本編、一種のコージー・ミステリと言えないこともないが、謎解き要素は乏しい。起きたことのほとんどは中盤で見えてしまいホワイダニットとしては成立しないし、犯人当てのフーダニットとしてはあまりヒントを出していない。ただ物語を楽しみ、罪というものがいかに生まれかつ償われるのか、長い時間を閲したのちに言葉や文字が人の心に何かを与えることができるのか、そうしたことを描いた物語として純粋に楽しむのが宜しいかと。
 なお訳文はたいへん読み易いが、誤植がちらほら目に付くのが艶消し。あとタイトルは、原題を直訳したほうが読後に訴えるものがあったのではなかろうか。

 しかし、しみじみ思うのだが、かつて我が国はこの国と戦争をしてたのだよな。戦時中で物資が乏しいとか言いつつアップルパイにアイスクリームを乗っけてるような奴らを相手にするのは無理があったよなあ。次にやる時はもっと上手く…いや、やらないに越したこたぁありませんけどね、もちろん。


3月11日(土) 曇のち雨

 4月並の気温に妙に暖かい雨が降る日、amazonから荷物が届く。DVD3枚に、『てんから(かまたきみこ/著、朝日ソノラマ)』。『ゲイルズバーグの春を愛す』を思わせる小さな町に起きた奇跡を描いた表題作のほか、無機物に生まれた魂をやさしく描いた短編を集めての一冊、読後感が非常に心地よい。
 もとより過剰に装飾的でなく人体のデフォルメも抑えた絵柄が、波津彬子や篠原烏童に似通うあたりで実に僕好みの「かまー」さんである。ただ、話の傾向と少な目の語りは、読み手に一定のSF・ファンタジイ濃度を必要とするんじゃないか、と心配せんでもない。もとよりネムキに描かれてるのだから案じるにも及ばないけど、より広範な読者に布教活動したくなるのがファンごころっすから。


3月12日(日) 晴時々曇

 昨日届いた荷物の残り、3枚のDVDを取り出す。ブツはいずれもメル・ブルックス監督作品、わけても長の年月リリースを待ちわびた『珍説世界史PART1 』をヘビーローテーション。いや〜、やっぱ面白いわこれ!
 人類の発祥からフランス革命までの世界史を綴ったミニ・コント集は、古い映画のことで妙に間延びした部分もあるし、セットも道具立ても現代と比べると豪華とはいえない。しかし、発想のカッ飛び加減と演出、品が無いのに下卑てないギャグは、いずれもしみじみと「あほ」で何ともいえずオカシイ。例えば「最後の晩餐」に、いきなり画家のレオナルドさんが呼ばれてきて、描き上げた絵には…な〜んて、もうハリセン持って乱入して、当たるをさいわい薙ぎ倒したくなるくらいだ。
 中盤の大盛り上がりどころ、バーレスク風「スペインの異端審問」で裾をからげて踊り狂う修道僧は、ひとたび観れば二度と記憶から抜けないほどのインパクトがある。モンティ・パイソンの「Nobody expects the Spanish Inquisition!」と並んで、かの大愚考を笑いのめすにはうってつけ。
 ところでPART2はいつ作られるのかな?「宇宙のユダヤ人」のストーリーが気になるんですが、やっぱオチはミラクル?


 ※注意:タイトルの「PART1」は小ネタのみの予告編を成立させるためのものですので、製作される予定はありません。誰かが引き継いでくれれば別ですが。


3月15日(水) 曇時々晴

 『CSI:科学捜査班〜コールド・バーン〜(マックス・アラン・コリンズ/著、鎌田三平/訳、角川文庫)』読了。同名のTVシリーズのノヴェライズ、というか小説版オリジナルの3作目。雰囲気もネタもお見事の1作目、レベル急降下の2作目ときて、これは…えーと、竹の上、キモ吸い付ってとこですか。
 砂漠の真中の街・ベガスで発見された冷凍死体と、寒風凍てつくニューヨーク近郊の山中で焼かれていた射殺体。サブタイトルに表出される判じ物めいたこのネタ出しが、まるで古きよき時代のミステリ、いわゆる「本格」っぽくてニヤリ。また、学会に出向いた先で後者に出くわしたグリッソムとサラのシチュエーションが、まんま「雪の山荘」になってるのも興趣をそそる。
 とはいうものの、流石に現代、まして科学的証拠をもって犯人を追うのが主題の作品なので、それ以上のケレンは無い。地道な捜査過程が続き、僅かな証拠と僥倖あいまって真相に行き着く過程を楽しむのみだ。
 惜しむらくは、犯人の造形がイマイチ。こういう馬鹿は確かに居て我が国でも時折ニュース種になってるけど、ちょっと独創性つか面白味に欠けやしなかろうか。


3月20日(月) 雪時々曇

 昨日まですっかり露わになっていた路面がまた真っ白に塗り直された中、相方と街へ。雑用を片付けるだけでエネルギーを消費し尽くし、ようやく書店へ流れ着いたものの『グリムのような物語 トゥルーデおばさん(諸星大二郎/著、朝日ソノラマ)』のみゲットして帰宅。
 表題どおりグリム童話に材を採った、けれどオリジナルとは微妙に異なる道筋を辿る物語集。枕もとを猫に固められて見た夢のように妙な熱の漂う、捉えどころ無く暗くおぞましく、そのくせ何ともいえぬ可笑しみに充ちた童話の世界だ。
 そもそも作者の絵柄からしてヒトとそうでないモノとの境界が曖昧で、ちょっと気を抜くと何処とも知れぬ「向こう側」へ簡単に転がり落ちられるものだから、話の筋があいまっての不安定感は他に類をみない。ぜひこの系統で、各種童話を料っていただけないものだろうか。

 夜、『仮面ライダー カブト』の溜まってる録画分を一部消化。今回のシリーズは脚本がいいなあ、と改めて感心。特にキャラ立てが上手い。
 「俺様至上主義」の主人公が、だからといって単なる自己中ではなく(謎の)おばあちゃんの教えを守り、他者の弱さを責めずさらりと庇う柔軟さをもつ事がしっかり描かれている。どうやらヒロインらしい少女も、登場時にいきなり「僕女?アニメの見過ぎですか?」とか思わせておいて、実は災禍に傷ついてからの他人を拒む心の現れと知れる。こういう細かい描写があってこそ、物語が引き立つというものだよな。まあ、お子様たちのウケはどうなのか分からぬが。
 あと、話が未だ加速段階ということもあるけれど、1話ごとのエピソードがいまひとつ印象に残りにくい気がしないでもない。こないだまでやってた『喰いタン』はコロッケのエピソードみたいに、あえて画面で描写しない部分が話としてはキッチリ腑に落ちるような、そんな成り行きを期待しているのだが。


3月27日(月) 曇時々晴

 最近、どーも日記が書けない。仕事が深更に及ぶほど忙しいってのが最大の理由だろうとは思うが、しかし以前は内職する時間ぐらい捻り出せないようなブキッチョじゃなかった筈、おかしいなあ。
 と、この1週間ばかりを思い起こしてみる。
 とりあえず映画はというと、メル・ブルックス作品をひととおりリピート。『珍説世界史』『メル・ブルックスの大脱走』『ヤング・フランケンシュタイン』とDVDリリースされているのは嬉しい限り。あとは『新・サイコ』が出てくれれば申し分ないんだが…と言いつつビデオで鑑賞。
 他には『エイリアンVS.プレデター』。原作好きゆえ不安たっぷりだったのだが、まあその、なんだ、思ったより酷くないかなと。コミックで描写されたヒロインの在り様の変化とか異人類としてのプレデターの設定とかはどっかへふっ飛んじまってヴァーサスものの顔見せ興行になり、オチもまあお約束(つーかスカーは何故あの状態で地上へ出たかね?)だったけど、プロローグとしてはこんなもんじゃないかと。ええ、もちろん続編が作られると思ってます。
 『チャーリーとチョコレート工場』も、やっと観た。これまた原作とはいろいろ違えてあるけれど、映像の力でそこらをぐぐっとねじ伏せられた感で素直に楽しかったっす。ウンパ・ルンパ(ダンス覚えなくちゃ!)とかリスのシーンとか、裏方を見て感動しちまう部分はもちろんだけど、主人公が(あり得ない極貧ってことを除けば)本当に普通の子で、『ネバーエンディングストーリー』の幕切れみたいに唖然とさせられることがなかったのが気持ち良かったな。ものすごい片意地親父には爆笑したし、クソガキどもに軽い調子で痛打を浴びせる描写も痛快だった。この点において原作者ダールとバートン監督はほんとに相性が良かったような。もっとも、バートンは力加減を間違うと『オイスター・ボーイの憂鬱な死』の酸鼻に簡単に転げ込んでしまうのだけど。
 あとはTVで『チャングムの誓い』を眺めて古代朝鮮王国のメイドエプロン(違)に萌えたり、パソコンTVの配信サイトGYAOで中国大河ドラマ『康煕王朝』をぶっ続けで観て横山三国志なみに見分けがつかないキャラクター群に頭をかかえてみたり。とまあ、こんな調子で、合間にはもちろんみっしり本を読み、時に魔窟(もう書庫と呼ぶのはやめた)を切り崩し、また時にはパテを盛っては削り、古いゲームを取り出しては家人の寝ている横で音なしプレイに興じている。
 うーむ。
 これだけネタがあるのに、なぜ日記が書けないのだろう。やっぱり働きすぎなんだろうな、うん。


3月28日(火) 晴のち雪のち雷雨

 何が天の障りとなったやら、上記の如くトンデモな空模様。しまいに会社中が一瞬真っ暗になったりして、実にスリリングな1日の締めくくりであった。もちろんPCがダウンしちまった連中の怨嗟の声があっちこっちで渦巻いて、社内は戸外よりもオドロな雰囲気となったワケで。つか今時、そんなに脆弱な電源のマシンを愛用しないでいただきたいものだが。

 『鋼の錬金術師 13(荒川弘/著、ガンガンコミックス)』読了。初回限定版をamazonで頼んでおいて、ついつい店先で通常版を買ってしまったヤツだ。だって読みたかったんだよう我慢できなかったんだよう!って前にも同じことしてた気がするが、まあそういうことで。
 一読、ほんっっっっとに上手いな!としみじみ感嘆。国を魔方陣に見立てての大陰謀を真相に持ってくるなんてベタなことはすまいと思っていたけれど、どころか軽〜く「そんなのもうやっちゃった」と流されるとは。ホムンクルスたちの真の姿も矢継ぎ早に明かし、想像だにしない苦境からの脱出劇を淀みなく描くついでに真理の扉の向こう側をチラリ、そしてついに「おとうさま」の顔を見せ微妙な違和感を漂わせての締めは続巻へのヒキも充分、なんとも巧者としか。サービス良すぎ!この後どうすんだ?と妙な心配をしちまうほどだ。
 まあ、この作者のことだから、更にさらにこっちの予想の外を行ってくれるのだろうな。ぜひ終幕のその時までそうやってパワフルに惹きつけて、毎回2冊買わせていただきたいものだ。何か間違ってる気もするが、やはりそういうことで。


3月31日(金) 曇

 ニフティサーブが「パソコン通信」サービスを全て終了するというニュースを目にして、しみじみと時間の経過を思う勤務中。思えば遠くへ来たもんだ。
 ざっと10数年前、常時接続なんぞしようものなら目のくり玉飛び出るような請求書をNTTから貰ったであろう、時代。夜11時から朝8時の定額サービス・テレホーダイを契約して、夜毎に会議室のログをダウンロードしては日中せっせとレスを書き、また夜にそれを持ち寄っていたタイムラグまみれのコミュニケーション。今ならものの10分でできそうなやりとりを数日がかりで送り送られしていた、なんとも牧歌的な時代であった。
 当時の僕はというと、妙な選民意識と文弱者の劣等感がないまぜになった感のある、頭でっかちトークでかの会議室を流れ漂っていたような気がする。たかが雑談から何故か「誹謗中傷」なんて言葉を多用する皮肉だらけの口喧嘩に明け暮れてみたりして、いい年して青臭い口だけ人種の典型みたいな振る舞いをしてたなあ。リアルでも仕事の忙しさが臨界点を超えて死にかけたり、信用して近付けた人間にとんでもない真似(今なら不正アクセスで告訴できるんじゃあるまいか)をされたりとトンデモな事があったっけ。まあ、ニフのほうも女性の存在が稀少なあまりネカマ殺人事件が起きたりという馬鹿げた話にも事欠かなかった。
 けれど、テキストだけに特化した人々のコミュニケーションはいつ何処を読んでも面白く、また今でも最高に大好きなゲームをきっかけに世代も環境もまるで違う友人達を得、今に繋がっていることは何より大きな収穫だった。
 ありがとう、そしてさようなら。その場に居合わせることは出来ないけれど、心のうちでログアウトのコマンドを叩いておこう。

 『雨柳堂夢咄 其ノ十一(波津彬子/著、朝日ソノラマ)』
 書いて字の如くの物の怪たちの往来する骨董店の物語も巻を重ねて11冊目、しかし今だ衰えぬ筆の運びはめでたき限り。やさしい物語はどれを取っても胸のうちに温かいものを呼び覚ましてくれる気がする。特に巻頭、モノノケの存在がおぼろな一編の情ときたら、ほとんど反則の泣かせ技ですぜ。うう、卑怯な〜(滝涙)
 それにしても、これだけ数をこなしていてマンネリ感が無いのはすごいの一言、きっとナミガシラ先生の周囲には大勢の語り部たちがまぁるい目をして犇いているに違いない。


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