店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

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5月1日(日) 曇

 29日からの連休をダラ寝して過ごすこと3日目。休みに入る前からの鼻風邪がどうにも治まらなかったうえに、ず〜っと雨天曇天続きで太陽電池がヘタレてるんである。何か起爆剤でも無いと動く気しまへん…あ、宝くじ当たってる!わあい!

 ということで1万円分だけ元気になったものの、天候がマシにならんことにゃ出かける気にもならないし作業も進められない。ということで、まずは読みさしの本に手を伸ばす。ファファード&グレイ・マウザーシリーズ巻の4、『妖魔と二剣士(フリッツ・ライバー/著、浅倉久志/訳、創元推理文庫)』読了。
 イマドキのファンタジーはさほど読んでないので確たることは言えないけど、やはり全体に古めかしいのじゃなかろーか。あえて蒼然たる言葉遣いをしているのは分るのだが、やはりこの巻を待つに費やした年月は長かったなあと老骨でさえ思わないではない空気が漂っている。あろうことか作者その人さえ、設定の一部を忘れている…のは、まあ別な問題だと思うけれど。
 が、だからといってつまらないかというと、さにあらず(嗚呼、読み手の古ぶるしき哉)。相変わらずの凸凹コンビが減らず口を叩きあいながら乗り出す極限状況の冒険のスリル、そして戻った彼らを待ち受ける間抜けな顛末のいずれもに僕は容易く引き込まれ、まるで映画を観るようにシーンの数々を脳裏に描くことができた。すぐれたマスターによるテーブルトークRPGのセッションを終えた時の昂揚と爽快感、それに心地よい疲労と満足感をもって本を置けたのは幸せである。これはやはり語り部たるライバー翁の描写力と、場面ごとの構成力によるものだろうな。
 ただ難を言えば、今回出てきたヒロインたちの、いずれも僕には趣味じゃなかった。唯一魅力的だったのはフリッサかな。え、何か問題でも?

 残る時間は溜まったビデオの消化。時間帯を移動してオリジナル脚本を出してからイマイチ面白みつかパワーの抜けた『ケロロ軍曹』を2週分チェック。溜めても気にならなくなったあたりで、もう興味は薄れてるような気がせんでも。
 『仮面ライダー響鬼』は新顔が登場、またアクションを前面に話が運んだのでヒキも強まり愉しめたところ。とはいえ、主人公たる少年は例によって間の悪いことに盲腸こじらせて入院したりしてるんですが。しかも周囲にまた「鬼(ライダー)」の関係者が増えてるし。災難小僧の明日はどっちだ!明日夢じゃなくて明日無じゃないのかいや何でもありませんゲフンゲフン。
 次は、ここんとこ毎週観てる海外ドラマ『C.S.I:科学捜査班』。現場に残された僅かな証拠で犯人を追い詰める「ラスベガス市警犯罪課・犯罪現場捜査研究所科学捜査班」の活動を描くもの。科学的な分析と各種知識を組み合わせメンバーが手分けして捜査を進める過程は、アクション無しで基本的に地味なんだけど、意外なモノから犯罪の情景が暴き出される展開は退屈とは無縁である。『Dr.刑事クインシー』にワクワク見入った子供時代を思い出しつつ、岡目八目で推理をめぐらせるのが楽しい愉しい。また「犯人を捕らえてめでたしめでたし」にならない辛口ドラマも好ましいところ、DVD買っちまおうかな〜と思っている今日この頃である。
 トリはNHKで『名探偵ポワロとマープル』から大河ドラマ『義経』を眺めて、本日は終了。これでビールと枝豆があれば、完璧な日曜の締めくくりなんだがな〜。まだ夜にはストーブの要る土地柄、うかつなことをすると風邪を引きかねん。番茶でも啜って、本日これまで。


5月3日(火) 晴

 珍しく…というのも癪ながら、この春初めての瑕疵なき上天気。気温は平年並みとて16度を超え、日向で座り込むとうっかり転寝しそうな心地よさ。オノレの太陽電池のレベルがだーっと上がるのを感じたところで、さっそく窓を開け放って掃除をし洗濯物を干し、大物をひとまとめにクリーニング屋へ放り込む。うおおおおお、春だ春だ春だあああぁっ!

 と、年甲斐も無く大はしゃぎしていたら草臥れてしまい(おい)いつものようにPCに張り付きネットをうろうろ。『銀河ヒッチハイク・ガイド』映画版のニュースを拾う。同好の士の潜むに違いないヒロツさんちへ持ち込んだところ、さっそくJUNCITさんよりサイト(Flashコンテンツ、重くて音が出るので注意)を教えていただいた。
 で、人間&宇宙人キャストはさておいて、鬱病ロボット・マーヴィンのデザインにびっくり。頭でっかちの赤ちゃん体形、妙に可愛いじゃないか、なんかイメージ違うなあと思ってたら、これがデカいのだ。うっかり傍にいて転倒の巻き添え食らったら大怪我しそうなシロモノ。
 しかも声の担当が、アラン・リックマン。
 ジョニー・デップやゲイリー・オールドマンほどじゃないけれど、このヒトってかなりケッタイな役者じゃなかろうか。『ダイ・ハード』での、観るものの背筋を寒くするような冷酷なテロリストはまだマトモなほうで、スネイプ先生だのドクター・ラザラスだの、オイシくないとは言わないが妙なキャラクターばかり演じてる気がする。それで今回がこれ。なんですか、あの声で「落ち込んでるんです」とか言いながら雪に顔突っ込んでみたりしますかマーヴィン。うーむ、なんか猛烈に観たくなってきたぞ。早く日本公開を!<変観客
 とりあえず劇場では、本編もさりながらグッズにタオルが無いか忘れずチェックしなくては。いやさ原作ファンとしては事前に日本手拭で誂えて、鉢巻して乗り込むべきか?

 午後、大家さんの庭の片隅を借りてねこまのハーブ園を作るべく開墾作業に取り掛かった。おお、働き者だなオレ。ちなみに面積は家人&猫一同の額ぐらいですが。
 とかやってたら、カラスが一羽、至近距離へ舞い降りてきた。冬の間ちょこちょこ顔を合わせてたヤツに違いない、つかず離れずの距離を保ちつつこちらを伺い、喉声を出して首を傾げてみせる。しょうのないヤツだなあとオヤツを取りに家に入ったら、ドアの閉まる音に驚いて逃げ去ってしまった。うむうむ、野生動物との意思疎通はかように難しいものであるよ。つかやっちゃいけませんねゴメンナサイ。

 かく充実した一日を過ごし、夜は読書。
 先任者の行方不明に伴い、見知らぬ土地へ派遣された仕事一筋の技師。何故か警戒し口を噤む周囲の者、向けられる執拗な反感、不可思議なトラブル、陰で糸を引く有力者、そして襲い来る未曾有の天変地異…とくるとパニックものなんかで結構アリガチなシチュエーションではなかろうか。しかも、それが古代の超有名都市で現実に起きた大災禍をモチーフに描かれるとなると、いっそどう描くのか心配になってくる。なにせ読み手は、作中においてこれから起こることを知っている、アジアの一辺境に住む凡庸な読み手であるこの僕でさえ子供時代に死体の形を目の当たり見たことがあるような超メジャー災難だ。さあ、どう描く?つか大丈夫ですか、こんなテーマ選んじまって?
 と、大ハズレ覚悟、好奇心のみで手にした『ポンペイの四日間(ロバート・ハリス/著、菊池よしみ/訳)』だったが、これが掘り出し物だった。あ〜、いや、シャレじゃないですハイ。
 ストーリーと人物は上にも書いたようにアリガチ、いささかステロなきらいはあるのだけど、キャラクターに取っ付きやすくしておいて、ローマ時代の水道という、現代以上に重要性を帯びたライフラインで発生するトラブルを重ねて描くことで、多くの人生が迫り来る「その瞬間」へ収斂してゆく緊迫感が否応無しに盛り上げられている。
 また、当時の風俗や文物を丁寧に書き込み、はるか古代の世界へと読者を拉し去る筆運びが、とにかく見事。さらに、世界に稀なる巨大水道はもちろん、発掘されたさまざまな文献や映像で語られた遺構や人名(パン屋と洗濯屋の風景とか、壁に書かれた選挙広告、終幕近くで夫が探す妻の名など)がさりげなく散りばめてあるから、素人レベルながら何がしかの前知識をもって読むと面白さは格別となる。訳文もなめらかで作品をしっかり支えてて読み易い。世界史嫌いの学生さんにもお勧めである。
 ところでふと思ったのだが、僕が幼少時に死体の形、つまりあの石膏像を見たのは市内のデパートで開催された展覧会だった。人がたのソレが実際に不慮の死を遂げた人間の最期の姿だということが頭に沁み込むにつれ胸苦しくなって、母の手を引き早々に逃げ出したのだけど、今考えると悪趣味なイベントだよなあ。被災地の皆さん、今更ですけどごめんなさい。


5月8日(日) 曇

 ねこまとふたり、パルコで開催中のイベント「The Shokuban」へ。海洋堂がこれまで出してきた食玩を一挙に展示するというもの、作品が極小とあって会場はフロアの一部を仕切っただけでさのみ広くないのだが、それゆえ展示物が棚にみっしり詰まった印象ができて見応えは十分。ひとつひとつの出来栄えをチェックするもよし、引いて俯瞰して数に唸るもよし。製作過程をみて「弘法筆を選ばず」を実感するもまた悪くない。つか、なんで普通の石粉粘土(フォルモ)であんな造形ができますか?抜き型の精度は何事ですか?我が身を省みず少し落ち込みましたよ。
 出口にあたる売店コーナーで、ルイス島のチェス駒を求める。東京都美術館の「大英博物館の至宝展」か、イギリスのかの博物館でしか買えなかったモノなので、たいへん嬉しい。ただ、ポーン以外の5個のみってのはセットとしては淋しいな。どうせならフルセットにしてくれれば、手すさびに烏鷺を戦わせてみるものを。
 表へ出ると、音に聞こえたファッションビルのウインドウには、このキャンペーンの告知としてケンシロウが頑張っていた。そういえば会場入り口には現社長、じゃなくて大魔神が居たっけなあ。食玩好きのうち女性や子供にはアピールしにくいような気がしますが、どんなもんざんしょ。
 

 続いてハンズに、こちらはユニークなTシャツを集めたフェアをメインターゲットに。我が家でイチオシの「頭の悪いTシャツ」メーカー、レッド・バズーカも参加しているので、そこらを目当てに訪れてみた。残念ながらかねて狙いのシャツはなかったけれど、他のメーカーに比してネタの濃度やオモシロさはやはりピカイチではないかと。さあ、キミも「白点病」を買って僕とお揃いに!<よりによってソレかい

 夜、『ホーンティング』のTV放映を観る。『山荘奇談』をジュブナイルで読んで以来の原作好きゆえ劇場に行けなかったのを悔やんでたのだが、まあ、その、アレだ、行かなくて正解だったかなと。怪現象に脅かされ周囲の人間には疑われ蔑ろにされ、じわじわと追い詰められてゆく主人公の哀感、にもかかわらず憐憫より不快を覚える描き口ってものが綺麗さっぱり払拭され、シンプルな怨霊大戦争だけのシロモノになってるんだもの。心理描写もなければ現象自体は上出来なCGってだけで凄みも乏しい。『レリック』が怪獣映画になり『ウルフェン』がスピリチュアルなご教訓になっても、撮り方ひとつで面白みは失われなかったんだけど、これは、なあ。いっそ登場人物を増やしてスプラッタ虐殺劇にしたほうがマシだったんじゃないのだろうか?
 唯一の救いはキャサリン・ゼタ・ジョーンズがただただ美しかったこと。終幕、オバケの猛攻に髪振り乱して絶叫しててさえ綺麗である。僕ならヒロインよりこっちに執着しますな、墓の下からでも。


5月18日(水) 曇のち雨

 この一週間、風邪引きである。
 先週の火曜以来だから、実際にはそれ以上になるか。鼻グズと咳と微熱がいつまでも治まらない、なかなかイヤンな症状である。いつぞやのアレルギーみたいに夜っぴて咳をしないだけマシかもしれないが、鼻から脳がダラダラ流れているようで何をするにもかったるく、実にマズい。本を読む以外は何もする気にならん。掃除洗濯はいうに及ばず、仕事なんてもってのほか…って、そりゃ風邪引かなくても同じなんですけどね、ええ。何か問題でもありますか?

 とか微妙に開き直りつつ、しっかりみっちり読んだ本の一部を。
 『架空世界の悪党図鑑(光クラブ/著、講談社)』
 奇妙愛博士ご推薦の企画モノ。文学・映画・コミック・アニメ・特撮・ゲームから、これはという悪党どもを並べてみた本。上のようなジャンル分けだけに洋物が少ないのがちと不満なれど、それぞれに付されたコメントが簡略ながら読みやすく楽しく、日々ちまちまと愉しむナイトキャップにお勧めである。
 個人的にツボだったのが『人魚姫』の王子。幼少時から「こいつバカだよな」と思ってたんだが「無知は罪」としてきっぱり糾弾されていたのが爽快だった。『白鳥の湖』とか『ジゼル』などバレエネタもそうだけど、童話の王子様役に己の恋人さえ見分けられないお馬鹿さんが多いのは、やはり作者に男性が多いからなのか?誰かそこらへん検証してみませんか?ついでに『椿姫』『トゥーランドット』などオペラ作品からも吊るし上げられそうですぜ。
 見方の面白いところでは『幼年期の終り』からカレルレンが入っていたところか。あと『装甲騎兵ボトムズ』からロッチナってのは、ちょっと納得がいかないなあ。あいつは単なる理想主義者なんであって、他にいたでしょうが「人間のクズだなッ!」と言われてポイされた人とか。あ、それを言うなら『機甲猟兵メロウリンク』のキーク・キャラダインが採用されてないのもアレだ。ぜひ次回は載せてやっていただきたい。
 ちなみにゲーム部門では大好きな小島監督作品から2名が俎上に上がっていた。うち1名は確かに悪党の鑑みたいなヤツ、もう1方はその名にはそぐわない気がするものの個人的に恨み骨髄だったヤツときて、書き手氏に親近感を覚えたモンである。ほんと、思い出すだに腹の立つ奴でしたな。ンの野郎、今度こそぶっ殺してやる!<無理です

 『永遠の森 博物館惑星』『五人姉妹(ともに菅浩江/著、ハヤカワ文庫)』
 相方の薦めで初めて読んだのだけど、なかなか良い出会いだったな。特に前者で描かれた架空のテクノロジーと現実の美術論や分析方法が巧みに織り交ぜられているのが読みどころだった。文字どおりの常時接続がシステムダウンし途方にくれる主人公たちには、パソコンにふれて以来、多々出会ってきたその局面を思い出させられて感情移入もひとしおだったし。そう、例えば開発者でいっぱいのフロアが停電した時、一瞬の完全な静寂の後に響いた、驚きと悲嘆と怒りがないまぜになった「おおぉぉおぉぉぉ」という声とかその後の所在無い時間とかを思い出したりして。
 ただ、美を扱う者もまた、一種のアーティストになるという主張は良いのだが、それを締めの話に持ってくる手順がいささか強引ではなかろうか。なんというか「彼女」の才能の発現に唐突感が否めない。また物語の最後に登場するシステムの名前も、そこまで状況にそぐわせてきた他のものと些か不釣合いではと思う。同じ神話から引くなら、大地母神ではなく人間の名前にしたほうが良かったのではないかなぁ、その能力がヒトに近付こうとしていることを考えると、なおさらそう思われるのだ。
 そもそも、1冊で閉じるにはこの世界は勿体無さすぎる。小粋な謎解きをマッチングさせた前半のような作品を、もっと書いてもらえたら、読者として幸いこれに過ぐるはないな。

 風邪気味なので味噌汁がことのほかウマイ。ゆず胡椒をちょっぴり入れると、さらに美味である。ちなみに我が家愛用の品は、某組織の三女神様よりの賜りモノであったりする。西のかたを三拝九拝して、さて、いただきます。


5月19日(木) 雨

 昨日に続き、しっかりみっちり読んだ本の記録。
 『シャーロック・ホームズ ベイカー街の殺人(エドワード・D・ホック他/著、日暮雅通/訳、原書房)』と『シャーロック・ホームズ ワトスンの災厄(アン・ペリー他/著、日暮雅通/訳、原書房)』、同じ出版社から上梓されたクリスマス・テーマの2冊に続き、いずれも当代の達人たちによるホームズ・パスティーシュのアンソロジーである。単行本とて持ち歩けず、もっぱら寝床で病欠日の友としたのだが、面白くて碌に寝られませんでした、はい。
 まず前者ではギリアン・リンスコットの『ホームズを乗せた辻馬車』が一押し。コメディをものすにあたりホームズやワトソンの戯画化というありがちな手法を廃し、それでいて軽快に話を運んで笑わせる芸は只者ではない。邦訳は3冊程度しか無いようだが、探してみる価値はあるかもだ。また、この時代の書き手として我が家ではベストと崇めているアン・ペリーの『真っ白な靴下』や、ビル・クライダー『吸血鬼の噛み痕事件』はオリジナルの雰囲気が濃厚でファンには嬉しい。
 後者においては、シャーリン・マクラムの『白い馬の谷』が良かった。話自体はめざましいものではないけれど、情景描写が絵画的なまでに巧みで引き込まれるものがある。さすが『暗黒太陽の浮気娘』!
 ねこま「せめて『丘をさまよう女』って言ってあげれば?」
 すまん、僕はまだ読んでない。
 あとはキャロリン・ウィートの『世にも稀なる鳥の冒険』レノーア・キャロル『“冒険”の始まる前』と、いずれも女性の手になるもので、ちょっと捻った道具立てや設定のものが面白かった。
 数本収録されていたエッセイの中では、フィリップ・A・シュレフラーの『ホームズとワトスン』の人物考察が読みやすくかつ興味深いものだった。逆にインターネットに関する一件は、ちょっと「イマサラ?」な感がぬぐえない。まだ時が止まっていない世界を語るには、たぶん紙というメディアは向いてないと思うのだ。


5月20日(金) 晴

 朝から素晴らしい上天気。5月3日以来の快挙である。誰のかは知りませんが、よくやった!
 なにせ今年の4〜5月ときたら、いつまでも気温は上がらんわ雨は降りまくるわ、咳がいつまでも止まらんのもひょっとしたら肺がカビてんじゃねぇかと疑わせるような状況だったからなぁ。20℃越えは想定してなかったんで暑くてかなわんのだが、光合成してエネルギーを蓄える程度には続いて欲しいもんであるよ。

 『昏い部屋 (ミネット・ウォルターズ/著、成川裕子/訳、創元推理文庫)』読了。
 事故による記憶喪失の只中で、自分を捨てた婚約者と親友の死を知らされた女性。しかも無残な姿となって発見されたそれの、第一容疑者は自分。可能性が無いというほど己に信をおけず、家族にもそれをやりかねない者がいる上に、過去に類似の事件があった…というショッキングな状況下の物語。
 しかも、このシチュエーションすら、本人の記憶の振幅と徐々に現れる事件のパーツによって二転三転、見え方が変わってゆく。主人公は病室にいながら迫り来る恐怖と必死に闘う薄幸の女なのか、それとも血みどろの手を隠して冷酷に演技を続ける鬼女なのか。或いは彼女を巡る人々の誰彼が、何食わぬ顔でそれを為してほくそえんでいるのか。醜さ苦しさ苛立たしさ哀しさを凝縮したような「疑い」を描くに秀でた作者の、これは読者まで巻き込む傑作だ。巧みに織り上げられた網目のひとつに躓いた読み手が、己の内奥にある偏見を見出して愕然とする瞬間もあり得る、これはそういう話なので。
 物事がスッキリとあるべき結末に落ち着かないとダメ、という向きにはお勧めできないが、ざわざわと胸に澱む昏がりを抑えて物語に取り込まれることを愉しむ人には必読の書かと。つか筆毒って誤変換されたのが、妙に正しく見えちまう話ですぜお立会い。


5月21日(土) 晴

 この春初、2日続きの上天気。太陽電池が満タンになるものの、久々の快適な気温に眠気のほうがつのり、全精力を傾けて転寝する所存…って、出社日なんだよなぁ畜生。

 ヒロツさんから、大好きなゲームのクリエイター&彼のチームについて新情報を貰う。いやぁ、「小島組」がついに独立、コナミゲームソフトカンパニー「小島プロダクション」として発足ですか。FOXのエンブレムを旗印に一国一城の主ってことッスな。よっ、めでたい!もちろん独立独行となればプレッシャーも桁違いではあろうけれど、行動半径も広げ得るであろうと期待ひとしお。実り多き航海となりますように。
 さて、旗揚げの演目を拝見するに、やはりというべきか『メタルギア』シリーズがずらり。まだ遊びきってない(つか触る時間も無いんですが)『スネークイーター』の完全版が、とあって、これはオンライン対戦モードが追加らしい。うう、ネットでサバゲーが!参加したい!PS2モデム買うか?つかまだ売ってるのか?<とじたばたしてみる初期型ユーザー。
 と思うと『メタルギア ソリッド 2』の続編『4』の予告も。イメージイラストにはソリッドやオタコンを囲んで、オセロット…はいいとして、メリルやライデンらしき人物が。つーこたぁ、やっぱり次世代も戦争の軛からは逃れられないのかねぇ。あと左端のはイロモノの聞こえも高いヴァンプか?しかし一番気になるのは右端、なにかもの思わしげな女性。ナオミに似てるのは彼女に萌え萌えな僕の気のせいか?と、まぁ色々楽しみなところではある。
 『スナッチャー』『ポリスノーツ』などの架空未来系が好きな人間としては、実のところそっちのSF濃度の高いヤツも期待したいところだ。まあ、テクノロジーの推移の読めなさから難しいのかもしれないけど、他の新作も拝みたいなぁという思いは捨てきれないものがある。よしアクションであるにせよ、地上戦以外のシチュエーションをどう見せてくれるかという思いもあるんだよね。せっかくゲーム機のスペックが上がってるんだから、たとえばリアルに再現した無重量空間での話とか、やって貰えんもんだろうか。作用反作用がシビアに再現されてて、うっかり動くと上も下も右も左も無いようなぐるぐる状態に…って、そんなゲームだったらプレイできませんな、少なくとも僕は。今でも眩暈と肩凝りに阻まれてモニタの前で戦死してますから。<退役しろよ

 夜、TVで『グリーンマイル』を観る。
 小説では文字に紛れていた聖書ネタ(オマージュというべきなのか)が、映像化されると明確に浮き出るなあと改めて認識。コーフィ=キリスト、悪いモノ=悪霊、主人公=彷徨えるユダヤ人、という重ねは聖書を物語として読む人種にはオリジナル(笑)の悲劇をも思わせて感動的だけど、信仰の対象とする人にはどうなのかな。キリシタンの方に伺ってみたい。
 ときにこの作品の主人公の描き方って、芥川竜之介の『さまよえる猶太人』の解釈と非常に似通ってると思う。よもやキングが知りはすまい、時と時代を隔てた相似もまた面白いものであった。


5月28日(土) 晴

 忙しく、無駄に慌しく流れるウィークデイ。夜まで仕事して帰って食って寝て飛び起きて駆け出してという繰り返しを続けていると、なんだかハムスターにでもなった気がする。いや、かれらのほうが運動になってるだけまだ建設的かもしれないが。

 とブツクサ言いつつ今日も出社の荒んだ気分を慰めてくれるのは、机の前に置いてある『ANAオリジナル ユニフォームコレクション』。ちなみに食玩ならぬ粉末スープ玩。JUNCITさんが大人買いしてダブったヤツを分けてもらったのだけど、これが実に出来がいい。ほっそり華奢なオンナノコのシルエットに憧れのスチュワーデス(って死語なんだよなぁ)の制服をまとわせ、とりどりにポーズをとらせている、そのバランスもまた見事。もちろん制服のディテールも帽子の記章にいたるまできちんと作ってあって、一切手抜き無し。天晴れ!
 難を言うなら可愛すぎるところだろうか。ええ、うきうき並べてたら同僚にねだられまくって1人しか手元に残りませんでしたよ。うおぉっ、グレてやるぅ!

 とつ言いつ、オヤツを買いに出たコンビニでリーメントの『うまいもん市場』が2つ残っているのを発見。微妙に欲しくないものが混じっているとかでねこまの大人買い指令が発動しなかったものだが、ここで会ったも何かの縁とゲット。見事、彼女が欲しがっていたパプリカと枇杷を引き当てた。とりあえずグレずにこのテのものを買い漁れという物欲神の思し召しであろう。そう決めた。
 それにしても、国内のメジャーな食品が並ぶ中に、なんだってオーストラリアとオランダが紛れ込んでいるんだろう。しかも前者のキウィは「うまいもん」として素直に納得できるけど、パプリカってのは分からないな。もしかしてスタッフに野菜大好きな人がいたとか?


5月29日(日) 晴

 朝から上天気。休日とて気分も爽快、相方とチャリで出かけることにした。室内は乱雑そのものだし持ち帰り仕事も山になってるが、え〜い知ったことか!後で泣くのはこっちだ!微妙に開き直りきれてないけどGO!
 近在に新しく出来たホームセンターへ行き、こういう店へ来た時の常で、部材や工具をつらつら眺め楽しく徘徊。例によって猫の餌だの砂だのを買い込む。さらに屋外で植物の苗を並べていたので、ねこまの指示するまま1ダースほどハーブを購入。また歯磨きだの防虫剤だのを作って妖術使いへの道を邁進するのであろう。頑張ってくれぃ。
 ねこま「でも世話はチミがするのであり」
 そりゃあキミは茶色い親指の持ち主だからなっ!…って、つまりアタシゃあ妖術使いの庭番ですか?とほほほほ。

 とか戯言をのたくりながら、日盛りを公園へ。青草の上に座って啜るMOSの玄米フレークシェイクが美味い。見渡す限り青葉の中に春と初夏の花が競い咲いてるし、近在の体育館ではジャニーズのイベントがあるとかで生きた花がゾロゾロ通るし、実に幸せである。まあ、後者については一部ラフレシアとかハエトリソウが紛れ込んでた気もするが、遠目にみればそれとて可憐であるということで。<失礼なやっちゃ

 夜、『しっかりものの老女の死(ジェイニー・ボライソー/著、安野玲/訳)』読了。昨年12月に読んだ『容疑者たちの事情(山田順子/訳)』の続編である。残念ながら、またまた「ツマンネ」であった。
 本筋である老女の死と真相究明に絡め、夫に死に別れた心の傷を引きずりながら生きてきたヒロインの内面の変化を描こうとしてるんだが、単なる自分本位な馬鹿女になってる部分が多すぎて不快。前回は細密だった風景描写も今回は乏しいし、フーダニットとしても早い時期にネタ割れしてるし、他のキャラクターも平板で惹かれるものがない。いっそ刑事のほうを主役にしたほうが面白く描けるんじゃないかな?


5月30日(月) 晴

 所用あって、道庁へ。札幌観光の目玉である赤煉瓦庁舎前、池のほとりをのたのた歩いていたら、なにか妙なものが視界の端に入った気がした。何だろうなと再検索。
 ……亀だ。
 甲長10数センチと思しきミシシッピアカミミガメ、いわゆるミドリガメが、水面に突き出した岩の上で、文字どおり甲羅干しをしている。うんうん、気持ちよさそうだねぇ、と微笑ましく見るには無理がある、なんたってここは冬には氷張りつめる極寒地域なのだ。なんでこんなトコでのんびり生きてますか?つか何故ここにいますか?
 いや、答は分ってる。大きくなって飼い切れなくなったやつを過酷な環境に棄てたバカがいて、それにもめげず定着しちまった外来種がいると、それだけのことなんだ。けど「それだけ」と言ってしまっていいことじゃあ無いと思う。環境保全うんぬんは場所柄さておくとしても、ここにコイツが居ていいってことはない。のほほんと陽を浴びている小さな生き物を不憫さと腹立たしさ無しに見られなくした馬鹿野郎、いつかてめぇも何処かに棄てられてみやがれ。
 胸中密かにひとしきり毒づきつつ、写真を撮ろうと近付いたら、気配を察した亀はどぼんと水音たててすいすい逃げていった。水面にひょっこり出した赤い頬っぺたが妙に愛らしい。居ちゃいけないイキモノに和む、少々複雑な日盛りであった。


翌月へ





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