雀が身丈ほどの枯草と格闘する姿をほほえましく眺めつつ出社。巣材を集める時期なのだな。ヒトはひたすら眠い季節だが…。
と、職場で数時間を過ごし(をいっ)帰りの車中で『さよならの接吻(ジェフ・アボット/著、吉澤康子/訳、ハヤカワ文庫)』を読み了える。
コージー・ミステリには2つの側面がある。1つは陽気さ。小さなコミュニティを構成する、かねて見知った親しい人々、それも能天気な面々の中での気の置けないドタバタ喜劇。殺人が絡んでさえ失われぬ明るさ、タフにしたたかに状況を楽しんでしまうお馬鹿っぷりに、ふと訪れた見物人として笑い転げつつ付き合ってしまう。
そしていま1つは、前者の要素の下に潜む、思いがけない陰が暴きだされる陰鬱さだ。倦み疲れるほどに単調な日々の暮らし、その中で身近な人間達に潜む弱さ、卑しさ、残酷さ、そして胸に抱えた黒々とした闇。そんな中、事件によって思いがけない裏切りや欲望が露わになり、生臭くどろどろした膿になって傷に溜まる。訪問者は我が身の周囲を思い合わせてうんざりしつつ、けれど物語の先が気になって立ち去れない。
で、アボットは思いっきり後者に属するタイプなんだよな。『図書館』シリーズでめいっぱい味わったそのテイストは、本作でも健在。って、ちーとも健やかじゃないですけども。真相の醜さといったら旧作に輪がかかってますよ土星よろしく。
ただ、今回の作品には笑える場面も多々あるし、主人公の傍にいる謎たっぷりの友人が「そこだけハードボイルド」な快刀乱麻の活躍を見せてくれるのも爽快だ。続編もあるとのことなので、邦訳を楽しみに待つとしよう。読み始めるときはきっと覚悟が要るだろうけどね。
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