『クリスマスに少女は還る(キャロル・オコンネル/著、務台夏子/訳)』を読む。
久々の
大当たり。しかも特級。とにかく面白い。読んで損は無い。読まなきゃ損だ。ぜひ読めさぁ読め今すぐ読め。って、出版からかな〜〜〜り経ってこんなこと言っても説得力ないですが。
二人の少女が姿を消し、誘拐事件として捜査を開始する警察。片方の子供が大物政治家の娘ということで
他の狙いもあって介入するFBI。これが特定の連続殺人犯によると主張し自らも捜査に赴く心理学者。悲嘆にくれながら我が子を取り戻そうと奔走する両親達。そして、かつて双子の妹を誘拐され殺された警官・ルージュと、もちろんタイトル・ロール?たる少女達自身、さらにさまざまな思惑や巡りあわせから事件に関わり、ちらりと登場するだけの端役も入り乱れ、物語は緊張を緩めずに展開する。
そういう話でしかも長いにかからわず、これらキャラクターの描写がとにかく見事。ここに書かれてないのも含めてかなりの数の人物が出てくるけれど、その個性がせめぎ合うことなく、きちんと書き分けられ、みな生きて動いている。洋モノはキャラが覚えにくい…なんて向きも見失わずに読めるのではなかろうか。
特に警官達がいい。卑しい街を行く高潔な騎士を気取るでない地道な集団での場面さえ、彼らの人間味あふれる行動に惹きつけられる。人間味ありすぎの
大ポカ野郎もいるんだが、それもまた
事件の一部として、欠くべからざる要素になっている。もちろん、主人公の一人たるルージュを含む、捜査の核をなす人々においておやだ。
また、事件が進み状況が変化するにつれ、それら人々がみせる変化や葛藤も目が離せない。少女たちの脱出
のための苦闘、過去の事件に生活を破壊されたふたりの女性の復活(
特に年長の人のそれは目覚ましい)、罪に問われ獄中で10余年を過ごし変貌した男、事件の真相を知る人物の
倫理と良心のせめぎあい。まぁ最後のそれは、僕には
マゾヒスティックな独善と自己保身の結果にしか思えなかったが。あとは、一見
ステロな狂言回しにしか見えないFBIの兄ちゃんが…って、語りたいことをそのまま並べると際限なくかつネタバレになっちまうじゃないか!ああもう!
犯人当ては計算ずくではなく「心理を読む」ものなので、トリック愛好家には不向きかなとは思う。また、何でもかんでも現時点で人知の及ぶ限りの方法で分析したくなる頭デッカチにも。だがあえて、そういう人にも薦めたい。きっと面白いと思うよ、なんせ僕がそうなんだから。
あと、とりわけ好きになったキャラクター2人がともに、話の途中で…な時には非常に切ない思いをさせられた。この世界の神は旧約の神、無慈悲に奪ってゆくんだなぁ。けれどそれゆえにこそ、ひたぶるな命に個性に魅せられるのであるんだよな。
最後になったが、訳者氏の仕事は実に素晴らしかった。本文はもちろん、このタイトルは原作者のそれより遥かに優れていると思う。
『出版翻訳データベース』の紹介ページによると、ご本人のお薦めの一冊でもあるとのこと、げにむべなるかな、うむ。