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8 温室の蜘蛛の糸 (続)

 ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』ハヤカワ文庫SF のP311〜P312に…

 ***(以下、引用)
「(前略)すべての生きものが、永遠の緑の宇宙に吸収されるのだ(後略)」
(略)
〈永遠の黄昏の地〉で力を使い果したとばかり思っていた稲妻は、明るい地帯でもまだ盛んにひらめいていた。ひときわ鮮やかな矢柄が広大な森林に落ち−−そのまま消えずにのこった。天と地にはさみうちされた大蛇さながら、それはのたうち、ついで根本から緑に変りはじめた。緑は空にのぼり、それにつれて矢柄はピンと張り、太くなった。天にむかってつき立つその柱は、巨大な指のようにも見えた。先頭の部分は、かすんだ大気に呑みこまれていた。
(略)
「胞子だ、塵だ、希望だ、成長だ、幾百世紀にもわたる地球の緑の溶け合わさったエッセンスだ。それだけだ。のぼって行くぞ、空へ、新しい場を求めて。あの下の地面は煉瓦みたいに焼けこげているだろう! 永劫の半分ほども熱し続けてきたのだ。熱すままにとろとろと煮たててきたのだ。そして余分な力をすこしだけ送ってやる。はねかえってくるエネルギーの中には生命のエキスがはいっている。軽くなり、天空へとたちのぼり、銀河流にのって宇宙空間を運ばれるのだ」
 ***(以上、引用)

…という描写があります。

 そして、P329に…

 ***(以下、引用)
「(前略)このツナワタリの鈍い思考中枢をさぐっているうちに、わたしはこれが遠い世界の存在を知っていることをつきとめたのだ。ここからはるかに離れた太陽をめぐる世界だ。ツナワタリには、そこへ行く力がある。(中略)緑の柱に沿って銀河流にのれば、それが新しい住み良い世界へ連れて行ってくれるはずだ。(後略)」
 ***(以上、引用)

…という描写があります。

 私が、上記の描写などから思いついたのは、ツナワタリが編んだ巨大な網状の半球と、それから分離して「銀河流」を渡る、いわゆる太陽光帆宇宙船、の姿でした。

温室の蜘蛛の糸 の私的な概念図 その1

 図3 温室の蜘蛛の糸 の私的な概念図 その1

 太陽光/太陽風を受けて、地球−月の公転軌道の外側に、半球状に展開しているイメージ、です。個々の大きさや対比寸法は、判り易さ優先で、大きめで描きました。
 地球や月を覆い隠していない感じ、で、地球や月の約390倍の大きさの目の粗い網状の「巨大な事物」を、ツナワタリが編み上げていた、と。
 こんなふうに半球状に展開・維持されるのか、は疑問ですが。


温室の蜘蛛の糸 の私的な概念図 その2

 図4 温室の蜘蛛の糸 の私的な概念図 その2

 月側から見たイメージ、です。バランスや大きさもイメージです。
 左側の円盤は、半球状の網から分離した太陽光帆宇宙船のつもりです。
 右側の図は、月の部分を拡大したイメージです。月本体から伸びた糸の束が地球に向かって伸びていて、公転軌道の外側に半球状の網が展開しています。

 ***

 ラリイ・ニーヴンの『インテグラル・ツリー』ハヤカワ文庫SF や、同『スモークリング』ハヤカワ文庫SF 等で描写されたように、軌道運動する棒状の構造物は、運動の中心である重力源に対して垂直になって安定します。
 なので、上記の「温室の蜘蛛の糸」も、公転軌道上にある以上、何らかの機構がなければ、太陽に対して垂直になろうとするものと思えます。
 なので。
 「温室の蜘蛛の糸」構造体のいたるところに、ほつれた糸が構造体から、太陽の方向や太陽とは反対側に「垂れ下がって」いたり、ツナワタリが太陽風/光帆的な膜構造を展開したり、で、公転軌道に横たわった状態を維持しているのかもしれない、等と考えてます。