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5 軌道エレベータはたわむ? 

 軌道エレベータは、その全体が地球の自転速度と同期しています。全体が同じ角速度を持っている、とも言えます。ということは、軌道エレベータの各部は、高度(回転中心からの距離)によって回転速度…軌道の接線方向の速度成分…が違うことになります。
 加速度は、速度の変化です。速度が変化するということは、加速度を受ける(加速度が生じる)ということです。
 軌道エレベータを上下に移動する物体は、この高度に応じた速度の差がある故に、上下に移動すると、その移動する速度に比例して、横方向の加速度を受けることになります(軌道エレベータから受ける/軌道エレベータが受ける)。

 上昇する場合、横方向の速度成分が増えることになり、その速度の増加のための加速度は、軌道エレベータの回転方向と同じ向きの力として作用します。
 下降する場合、横方向の速度成分が減ることになり、その速度の減少のための加速度は、軌道エレベータの回転方向と逆の向きの力として作用します。
 上下動の速度が大きければ大きいほど、横方向の速度成分の増減も大きくなるため、加速度も大きくなります。

 この横方向の加速度は、軌道エレベータを上下に移動する物体と軌道エレベータの間に作用する力です。上下動が続く限り、物体と軌道エレベータの間には、上下動のための力に加えて、横方向の力が働き続けることになります。
 したがって軌道エレベータは、通常の運用時には、常に横方向にたわむ力を受け続けることになります。

軌道エレベータの加速度と力の向き

 図 軌道エレベータの加速度と力の向き


 回転速度v(m/s)は、回転角速度ω(rad/s)に回転半径r(m)を乗算することで求まります。

 地球の場合、回転角速度は24時間で1回転ですので、2π(rad)/24(h)=(約)7.272×10^−5(rad/s)となり、赤道上の理想上の地表面(地球の中心から約6378km)では、V0=約464(m/s)に、静止衛星軌道高度(地球の中心から約42178km)では、V1=約3067(m/s)、です。

 v=ωrの式から判るように、回転速度vは角速度ωが一定であれば回転半径rに正比例します。
 地球の場合、高度が1m違えば、回転速度が0.0000727(m/s)違うことになり、上昇/下降の速度が速ければ速い程、その上昇/下降の速度に応じた横方向の速度変化=横方向の加速度が働く訳です。

 現時点(2006.01.15)では、世界最速のエレベータの最高速度は時速60.6km(16.8m/s)です(Google検索より)。
 この最高速度で軌道エレベータを上昇/下降すると、乗り物にかかる横方向の加速度は、0.0012(m/s^2)=約0.00012Gです…ほとんど感じられない感じ(^^;の値ですね。
 ただし、この最高速度で軌道エレベータの地上と静止衛星軌道高度とを移動すると、約590時間=24.6日ほども掛かってしまいます。

 夢の(^^;リニア・モーターカーの速度は時速500km(138.9m/s)。この速度で軌道エレベータを上昇/下降すると、横方向の加速度は、0.0101(m/s^2)=約0.001G、地上と静止衛星軌道高度との間を71.6時間=約3日で走破する計算になります。

 上記の想定では、横方向の加速度は小さな値に止まっています。が、上昇すれば地球の重力は低減します。上昇/下降の速度を上げれば横方向の加速度が増加します。

 軌道エレベータの設計では、この横方向の加速度を考慮に入れる必要がある、と思います。

 あと。
 上昇する物体は、軌道エレベータ本体に面する側を、軌道エレベータの回転方向側にすることで、上昇する間、軌道エレベータ本体から押される向きに力を受けるように出来ます。
 下降する物体は、軌道エレベータ本体に面する側を、軌道エレベータの回転方向と反対側にすることで、下降する間、軌道エレベータ本体から押される向きに力を受けるように出来ます。
 上記のようなレイアウト/デザインにすることで、上下動の制動に、物体と軌道エレベータ本体との直接的/物理的な摩擦力を使ったものを用意することが出来ると思います。