果ての谷 始まりの地 〜ガラン異聞〜
《イシリウスの章》#1
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#10[完結]
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石積みの壁が崩れ、歪な形の巨大な何かが、瓦礫を押し退けて姿を見せた。
「ここにも居たのか…」
絶望感が全身を締めつけ、オーデは現われた怪物から目が離せないまま、立ちつくした。
その無防備な姿に向かって、怪物がゆっくりと近づいてゆく。
周囲の街並みからは、生き残った人々の悲鳴や、怪物が蠢く異音が聞こえていた。
オーデは、死を覚悟した。
そこに。
天空から光の槍が降り注いだ。
光は、オーデの眼前に迫っていた怪物を貫いた。
一瞬の後。
怪物は、跡形もなく消え失せていた。
人々は、茫然と頭上を見上げた。
蒼穹の只中に、輝く翼を広げた何かが浮かび、人々を見つめていた。
『我は《竜》。神より、ル=ア=イシリウスの名を受けし者』
空中から、そう名乗る声が響いた。
そして、見つめる人々の前で、《竜》は人へと姿を変え、地上へと舞い降りた。
周囲に集まった人々を見回し、ル=ア=イシリウスは言った。
「私と共に、世界を脅かす怪物と戦って欲しい。私は、そのための《力》を、神より授かったのです」
***
こうして《竜の力》を得た人々は《森の竜》を名乗り、世界を巡っては怪物を倒す、世界の守護者となった。
やがて《森の竜》は、彼らを讃え崇める人々と共に、《神の衝立》の内側の、結晶樹の麓にある《楽園》に国を作り、《始まりの地》と名付けた。
***
「ヴォラド?」
一方の結晶樹の根元に造られた、ヴォラド神を奉る神殿の最奥で、神官長となったル=ア=イシリウスは神に問いかけた。
その視線の先には、結晶の中に取り込まれた人々の姿があった。
結晶の中の人々は、全員が《森の竜》であり、怪物との戦いで深い傷を負い、神の癒しを求めて神殿に来た者たちだった。
『…人とは、不思議なものだな』
独り言のような神の言葉。
「ヴォラド?」
『我や汝、自身や他人への崇拝や信奉、反発や憎悪。相矛盾する思いを、誰もが多かれ少なかれ抱えている。不思議で、それ故に興味深い…』
「ヴォラド」
『崇拝と…憎悪と…』
《イシリウスの章》 おわり
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