ここしばらくで読んだ本。
『聖なる少女たちの祈り(リチャード・モンタナリ/著、安藤由紀子/訳、集英社)』
たまさか(しかも相方の積読の中から)手にとったのだが、思いのほかの佳品。少女たちをターゲットにした残忍かつ奇妙に美しい猟奇殺人、立ち向かうはヴェテランの中年男と一児の母ながらまだ若い昇進したての新米女性。まず、このコンビの人物像がなかなかに上手い。おっさんのほうは汚濁の中を生きてきてなお踏み越えなかった一線に迷っているし、ルーキーはというといきなりの大事件に緊張しつつ家庭の危機に直面中。けれど二人ながらにプロとして己を律し、かつアリガチなジェネレーション/ジェンダーによるギャップなど作らず、率直に互いの力量を認めバディたるべくして事件解決に当たろうとする。ある意味「いい子ちゃん」な造型だけど、そこらでドラマを作るべく捻った作品が多い中、素直なだけに新味があるのだよな。
事件の展開も、まずまず。ミスディレクションは今ひとつ効いていないけれど、真犯人の登場にはおお!と膝を打たされた。きっちり布石を行って最後でどんでんと幕を開けてみせるあたり、一種古きよき本格系の味わいもあったりして。
訳もなかなか読み易く、スムーズに巻末まで流れることができた。ただ訳者氏にひとことお願いしたい、どうか今すこし語彙を増やしていただけまいか。キャラクターのほとんどが何かというと「にこり」と笑うつーのは、あまりにも場違いじゃあるめぇか。よしや英単語が同じでも、日本語に直すにワンパターンでなきゃいかんという法はないでしょう。シリーズは続くらしいから、ぜひ次作にて改善を。
で、こちらは改善の余地のなさそうな『猫はバナナの皮をむく(リリアン・J・ブラウン/著、羽田詩津子/訳、ハヤカワ文庫)』。
訳には一片の不満もないけれど、作者様はもうミステリを書く気は失せたと思われて、斯ジャンルとして楽しんできた身には寂しいかぎり。というか、そもそも小説への意欲が無くなったんですかねリリアンおば様。前作はかるく肉付けしたシノプシスみたいだったし、今回はっつーと話の半ば、起承転までで終わっちゃったみたいな座りの悪さがどうにもこうにも。なんせ「殺人だか何だか曖昧な死が」「疑わしい人物が居る」「告発者も怪しい素行」とネタを並べ、いつもの猫のお告げめいた行動の果て、結論が出ないで終わるんだぜおい。しかも田舎の人心観察日記ならまだ面白いのに、視点たるべきクィラランその人が噂の流通路になったりしてはどうしようもないじゃないか。
好きな作家が居なくなるのは悲しい、が、読むに耐えないものを発信してくるのはもっと悲しい。書店通いの難しい今日この頃、看板買いをさせてくれる人の少なさにしみじみ溜息つくばかりであった。いや、どのみち盲買いもしますけどね。
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