小川一水 ...last update 2012.09.04  [上]に戻る

 『群青神殿』ソノラマ文庫
 『導きの星』ハルキ文庫
 『第六大陸』ハヤカワ文庫JA
 『老ヴォールの惑星』ハヤカワ文庫JA
 『天涯の砦』早川書房
 『妙なる技の乙女たち』ポプラ社
 『不全世界の創造手(アーキテクト)』ASAHI NOVELS
 『天冥の標 I メニー・メニー・シープ 上,下』ハヤカワ文庫JA
 『天冥の標 II 救世群』ハヤカワ文庫JA
 『天冥の標 III アウレーリア一統』ハヤカワ文庫JA
 『天冥の標 IV 機械じかけの子息たち』ハヤカワ文庫JA
 『天冥の標 V 羊と猿と百掬の銀河』ハヤカワ文庫JA
 『天冥の標 VI 宿怨 PART1』ハヤカワ文庫JA
 『天冥の標 VI 宿怨 PART2』ハヤカワ文庫JA

『群青神殿』ソノラマ文庫
  購入:2002/06/28 読了:2002/07/19 

 あとがきで挙げられていた作品群に、私が付け加えるなら、ジョン・ウィンダム『海竜めざめる』ハヤカワ文庫SF、宇河弘樹『スタンダードブルー』少年画報社、ルイス・ウォルフ『海底旅行』角川文庫、と言ったところでしょうか。
 海の驚異・脅威を描く、深い藍色の物語りたち。
 世界は、いつでも未知と不思議に満ちている、と感じさせる、それでも・それ故に、未来に向かって肯定的な姿勢を見せてくれる、物語。
 それは素敵なSFの、嘉すべき特徴の一つだと、私が思うものでもあります。


『導きの星 I 目覚めの大地』ハルキ文庫
  購入:2002/01/19 読了:2004/10/30 
『導きの星 II 争いの地平』ハルキ文庫
  購入:2002/07/17 読了:2004/10/30 
『導きの星 III 災いの空』ハルキ文庫
  購入:2003/02/28 読了:2004/10/31 
『導きの星 IV 出会いの銀河』ハルキ文庫
  購入:2003/12/13 読了:2004/10/31 

 先に書かれていたあれこれの事物に、読み進めるに従って、驚天動地の裏があったことが判り、物語がどんなふうに締めくくられるのか、最後まで読めませんでした。

 『IV』の後半で、辻本司の描写が一歩引いた感じに思えて、主人公と言い難くなった印象があり、ちょっと醒めてしまった気がします。

 そして『IV』の後半は、自分の中にある人類優越観を見つめさせられて愕然としました。


『第六大陸 1』ハヤカワ文庫JA
  購入:2003/06/28 読了:2004/11/01 
『第六大陸 2』ハヤカワ文庫JA
  購入:2003/08/29 読了:2004/11/02 

 アーロン・ハリファクスの関わっているシーン(複数)で、涙腺が緩みました。

 物語の視点は青峰走也ですが、私には、主役は桃園寺妙であり、青峰走也は彼女が得る賞品/作者からの贈り物、のように思えます。

 イングー関連は、必要だったのでしょうか。
 確かにイングーは物語を締めくくる華やかな要素であり、物語に「昨日とは違う明日」を約束させています。でも、それが「在る」ことは、天の配剤/万に一つの偶然/奇跡に思えて(にしか思えなくて)、それは物語の「絵空事」の比率を上げてしまっているのではないか、と悩ましく感じられて。


『老ヴォールの惑星』ハヤカワ文庫JA
  購入:2005/08/12 読了:2005/08/22 

 作品集です。収録作は「ギャルナフカの迷宮」「老ヴォールの惑星」「幸せになる箱庭」「漂った男」の四編。巻末に、松浦晋也氏の解説が付いています。

「ギャルナフカの迷宮」
 結末を見据えながら、それに向かって展開を肉付けして行った、感じを持ちました。私には、魔法的な仕掛けに、話の迫真性を削がれてしまった/仮構性が強調されて受け取ってしまった、という印象があります。

「老ヴォールの惑星」
 真っ向唐竹割なジャンル内SF。この物語の後の話が読みたくなりました。この作品集の中では、私の中で一番長生きしそうな作品になるかも、と思ったりしてます。

「幸せになる箱庭」
 私にはSFではなくリアルだ、と読み終わって思った話でした。「老ヴォールの惑星」と対比させて、自分の中のSF観を考えさせられました。

「漂った男」
 最後の一行を読んで、骨折の音が聞こえた気がしました。


『天涯の砦』早川書房
  購入:2006/08/30 読了:2006/09/01 

 読了して思い返すと、読んでいる間、登場人物それぞれの個人の視点で語られる、突然の災禍に見舞われた戸惑い・衝撃・理解・憤慨、等々の等身大の「感情・思考」の流れに乗って、同じような「感情・思考」のうねりを感じていました。

 軌道複合体〈望天〉の事故の起こるくだりを読みながら、脳裏に浮かんだのは「東海村JCO臨界事故」でした。

『しかし望天は宇宙構造物であり、強度を犠牲にして軽さを求める選択がなされていた。』(P18)
 …地上or月面で製造したものを、重力井戸の底から持ち上げるため? 宇宙の工場で製造したものを建設位置に持って行く時や、正式運用時の、慣性質量を減らすため? 「宇宙」産業の、良くも悪くもな、伝統に則ったもの?

 わかたけ型月往還船…カバー絵で見えている「下」面が、〈望天〉のそれと同じく「床」面なのでしょうか。
 主推進機関の推力軸線と「床」面が、垂直ではなく平行なのは、加速時間が短い、ということ? とか、瑣末事ですが、個人的に気にしていることなので。

 2006.09.03 記。
 カーボンナノホイール(CNW)…  http://homepage3.nifty.com/anoda/oldpage/space/mlab16/mlab16.xml
 少々ブラウザ環境に資源の追加が必要かもしれませんが、科学的な参考に。


『妙なる技の乙女たち』ポプラ社
  購入:2008/02/22 読了:2008/03/07 

 『可紡性カーボンナノチューブ(スピンナブルCNT)の工業生産法』(P9)が実現したことで、世界最初の軌道エレベーターが建設された、シンガポール沖のリンガ諸島を主な舞台とした、異なる仕事・生活・境遇の女性が主人公の、七編の短編集です。

 第一話 天上のデザイナー
 …七編の中で一番、夢のような/ライトノベルな話(^^;。物語世界への導入編。

 第二話 港のタクシー艇長(スキッパー)
 …第三話と共に、軌道エレベーターから遠い話。目線は身の丈の高さ、視界は身の回り。

 第三話 楽園の島、売ります
 …第二話と共に、軌道エレベーターから遠い話。目線と視界は地上の人間社会・世界の内。

 第四話 セハット・デイケア保育日誌
 …七編の中で一番、続きが気になる話、かも(^^;。第七話に関連して欲しかったかも。

 第五話 Lift me to the Moon
 …七編の中で一番、個人的に設定が気になった話(−−;。
 (参考 → 想天/軌道エレベータ展望/7 軌道エレベータの乗り心地

 第六話 あなたに捧げる、この腕を
 …七編の中で一番、個人的に好きな話。

 第七話 the Lifestyles Of Human−beings At Space
 …七編の中で二番目に、個人的に設定が気になった話(^^;。
 (参考 → 想天/宇宙を想う/宇宙で暮らす

 いやもうごく一方的・個人的に、扱われている題材も考察も、口惜しいよぅ、ジェラシィよぅ、とハンカチを噛んだり枕を涙で濡らしたり(脳内で ^^;;;)。
 なので、個人的に元気が出た(爆)作品集でした。


『不全世界の創造手(アーキテクト)』ASAHI NOVELS
  購入:2008/12/24 読了:2008/12/24 

 自己増殖能力を持った機械:フォン・ノイマン・マシンを実用化した主人公を、現代の現実世界に外挿した、ビターチョコレート味の物語、という感じでしょうか。

 アクチュエーター他の電子部品の補充についての具体的な言及が少なかった点が、少し残念でした。
 損耗した既存機からの回収・再利用は当然、可能な限り行う、という描写はあり、現地では入手不可能な原材料がある可能性も考えると、物語の最後の時点でも、外部からの原材料や部品の補充は必要な段階でしかない、と感じられるのは、現実的な限界設定である、とは思いました。

 最初の方では、電子部品などをストックしたコンテナから取り出したり、損耗した機体から利用可能な部品を取り出したりする描写はありましたが、VNマシンが世界的な規模で運用され始めた後での、主力機が自力で製造できない部品を製造・運搬・修理するような機体の存在、あるいは、そういう行動を取るVNマシンの描写が、あって欲しかったです。

 世界中でVNマシンの性能を十全に発揮させるための、人員や部品のやりくりを実施監督している人材とかも、もしかしたらいたのでしょうか。物語の展開からすると、主人公たちは、基本的に一カ所に注力して、一仕事終えたら次の仕事に取りかかる感じにも思えるので、複数の「現場」間での資源の分配は無いようにしていたのかもしれない、と考えたりしてます。

 あと、この先の物語を、できれば知りたいです。


『天冥の標 I メニー・メニー・シープ 上,下』ハヤカワ文庫JA
  購入:2009/09/21 読了:2009/10/19 

 惑星ハーブCに、西暦二五〇三年に開かれた、地球人類の植民地メニー・メニー・シープ。
 そこまで地球人類を運んできた宇宙船シェパード号が事故を起こし、その混乱に乗じた者による独裁制を政治体制として持つことになって、三百年余りが経った時代。
 高度な科学技術や知識を独占し続ける独裁制に破綻が見え始め、被支配層は反抗の時を窺っています。
 惑星ハーブCの土着生物は知性を持ち、《石工(メイスン)》と呼ばれ、体制側の従順な「道具」として使役されています。
 惑星ハーブCの人類社会には、普通の人類の他に、高度な科学技術によって遺伝子レベルで肉体を改造した《海の一統(アンチヨークス)》や、《恋人たち(ラバーズ)》と呼ばれる特別な者たちが存在します。

 …と説明され、登場人物たちも信じているメニー・メニー・シープの世界は、しかし、物語が進むにつれて、登場人物たちにとっても異様・異質な面を持っていたことが明らかにされて行くのでした。
 そして、この物語世界の開示と世界観の変容と歩を合わせるように、登場人物たちもまた変化・変容してゆきます…と言うか、主役が誰なのか・何なのか、自体が、まったく判らなくなって終わってしまって、まさしく「ちょ、おいィ!?」(あとがき)状態です。

 『〜 II』は、いったいどんな状況・世界で始まるのか、どきどきわくわくです(苦笑)。


『天冥の標 II 救世群』ハヤカワ文庫JA
  購入:2010/03/10 読了:2010/04/07 

 西暦二〇一×年、未知の伝染病が世界に蔓延し始めます。

『世界を救う悪鬼たちと冷酷な聖者、そして疫病「冥王斑」が封じられるまでの話』(第一巻・あとがき)

 …「断章二」に『結晶星団』や『虚無回廊』のアレを連想したら、あとは『継ぐのは誰か』、『復活の日』、『果しなき流れの果に』、と、ぞろぞろ。さらに『宇宙のランデヴー 2〜4』も。
 そして、それら以上に『導きの星』や『復活の地』や『第六大陸』を、この『救世群』から感じました。

 「冷酷な聖者」…当てはまりそうなのは助演格のH氏くらい、なのですが、うーん(苦笑)。

 『〜 III』は、帯の惹句からすると[海]を舞台にした話でしょうか。


『天冥の標 III アウレーリア一統』ハヤカワ文庫JA
  購入:2010/07/12 読了:2010/07/19 

 前作の、少し(?)未来。
 まずは二十三世紀。木星で発見された、後に忘却炉と呼ばれることになる「ドロテア・ワット」に、小惑星帯に進出した人類の一国家・ケープコッドから派遣された調査隊の探索行の顛末から、物語は始まります。
 そのあとは、二十四世紀の小惑星帯を翔る戦闘宇宙艦とその乗員たちを主役とした、「ドロテア・ワット」を巡る、けっこう苦い、宇宙冒険活劇が語られます。

 …前作の感想で、
>> 『〜 III』は、帯の惹句からすると[海]を舞台にした話でしょうか。
 と書いたとき、光帆船を使った物語かな〜、と想像したりしてました。
 かなり自由自在に小惑星帯を行き来する描写には、身勝手ですが少しだけ肩すかし感を覚えてしまいました。

 舞台装置や大道具小道具こそ、現実の太陽系の未来世界に相応な事物が設定されていますが、物語や登場人物は、なんとなく「ライトノベル系の西欧風ファンタジー」を髣髴とさせる、かしら? と感じました。
 主役たちはエルフな感じ? じゃあ造艦技師はドワーフかな〜、かの人々は半魔族? 別の者たちは人間だよね、そして暗躍する存在は神魔な印象、等々。

 『〜 I』で提示された、様々な異質・異形の事物の大半が、この『〜 III』で、その出自(ルーツ)が解題されたように思えます。

『……オ前タチハ、兄弟ダ……』(小松左京「再会」より)
 『〜 III』の世界の様相が明確化したときに、連想したものです。

 『〜 IV』では、予告的に記されている副題からすると、現時点では未だ出自(ルーツ)不詳の『〜 I』の二種族について語られる感じ、でしょうか。


『天冥の標 IV 機械じかけの子息たち』ハヤカワ文庫JA
  購入:2011/05/27 読了:2011/05/29 

 前作の、すぐ後の時間・世界。
 始まり方も似た感じ、と言えるでしょうか。

 今作は《恋人たち(ラバーズ)》の来し方の物語でした。

 連想したのは先ず、前半で栗本薫『レダ』。今作は、作者氏の『レダ』への返歌なのだろうか、と想像したり。
 後半は、ブルース・スターリング『スキズマトリックス』、グレゴリィ・ベンフォード『大いなる天上の河』〜『輝く永遠への航海』、チャールズ・シェフィールド『ニムロデ狩り』、シオドア・スタージョン『人間以上』、等をちょっとずつ。
 突き放した語り口と言うか、乾いた視点と言うか、読み進めながら抱いた印象からは、小松左京が言う『宇宙喜劇(コメディ・コスモミータ)』を連想したりも。

 主人公の、最後のどんでん返し(?)で選んだ不可逆変化の呆気なさ・あっけらかんさ、は、《恋人たち(ラバーズ)》が体現する性愛者という先天的・公理的な存在理由・意義の、末尾で示唆された、そもそもの「性行為の目的」からの乖離/相転移/変質/逸脱ではないか、という「虚無/不安」から来ているのだろうか、と感じてます。

 『〜 V』では、『〜 I』へと向かう途中の話、か、『〜 I』から続く話、でしょうか。

 *** 2011.06.03 追記

 《ハニカム》のデザインには子宮の暗示は必須? と、ふと思って。
 前記の「性行為の目的」からの解離(以下略)は、でも、主人公たちの、最後の不可逆変化が「それ」に当たらないだろうか? と思い付きました。あの不可逆変化は、一種の「受精/新生/進化」と見なせないでしょうか、と。

 連想作品に、フランク・ハーバート『ドサディ実験星』を追加します。


『天冥の標 V 羊と猿と百掬の銀河』ハヤカワ文庫JA
  購入:2011/11/29 読了:2012/08/29 

 前作から、しばらく後の時間・世界。

 小惑星帯で農業を営む人々の中の一つの農家の話と、この物語の宇宙の知的生命体たちの来し方の概略とダダーと「敵」の淵源の話が、交互に語られます。

 連想したのは、ダダーと「敵」の物語では、E・E・スミス《レンズマン・シリーズ》,A・E・ヴァン・ヴォークト『宇宙船ビーグル号』,オラフ・ステープルドン『スターメイカー』,平井和正『幻魔大戦』,小松左京「黴」、など。
 農夫たちの物語には、特に連想する作品はありませんでした。

『ミスチフに見えていたものはただの仮面だった』(P269)
 …「敵」は、ダダーたち「寄生的被展開体」…他者の余剰リソースに寄生して展開することで稼働する者(P109の記述等から抽出)…とは正反対の、いわば「他者の中身を簒奪し、自身に置換する・自身のリソース(構成要素・表象・仮面、等)とする」ようなモノ、と言えるのではないか、と思えます。

 地球・人類社会に冥王斑をもたらしたらしい「敵」の様相には、コキュートスのジュデッカ、が浮かんだりしました。冷徹な「敵」の性情への印象として、多彩な生命体を襲い支配し自身の体系の中に「凍結」してしまう、というイメージから、だと思います。

 個と総体。
 人体と体細胞。
 人格は、物理的な身体にとっては「寄生的被展開体」に近いもの、なのでしょうか。


『天冥の標 VI 宿怨 PART1』ハヤカワ文庫JA
  購入:2012/05/12 読了:2012/08/31 

 前作から、百五十年ほど後の時間・世界。

 …今回は、特に連想する作品はありませんでした。

 ガール・ミーツ・ボーイ。
 少女は《救世群》の指導層候補。少年は《救世群》ではない富裕層。
 少女が自身の無知と無謀で、未知の場所で遭難しかけていたところに、少年は偶然に遭遇します。そして少女は、少年の「強固で無私の善意」(P104の記述から抽出)によって、思いがけない冒険的な体験をすることになります。

 その後、少年は自身の夢に向かって歩みを進めます。

 少女が属する《救世群》は、『天冥の標 IV 機械じかけの子息たち』の後で《恋人たち(ラバーズ)》が合流したことと、今回の物語の始まる少し前に《酸素いらず(アンチ・オックス)》の一派が冥王斑に感染し生き残った者たちが《救世群》の一員となったことを契機に、人類社会に対して恫喝的な行動をしようと、不穏な計画を進めていました。

 中盤で、『I メニー・メニー・シープ』で登場した者たちの中の、《咀嚼者(フェロシアン)》に繋がって行くのではないかと思われるモノが登場し、そして終盤には《石工(メイスン)》になるのではないかと思われる者たちが姿を表しました。

 そして、前作で明かされた、宇宙を制覇しつつある「敵」の、人類世界への浸透が、個体から組織まで着々と浸潤している様子が描かれて、次に続きます。
 ただ、個人レベルでの「敵」意の顕現は、ほぼ対ダダーへの反応だけで、せいぜい数人単位での発現です。しかし、「敵」の志向を反映する雰囲気・指向性は、様々な組織に採用・浸透しているように思えます。

 …「第四章 鳳仙花のころ・3」を読みながら、《恋人たち(ラバーズ)》の役どころ・この物語への必然度について、少し「都合の良さ/意図的・自覚的・恣意的な外挿・設定なのかな? という疑い」を感じました。や、それを言えば登場人物たちの性格設定や家庭環境からして、けっこう恣意的に劇的ではないか、とも感じてしまいます、か。


『天冥の標 VI 宿怨 PART2』ハヤカワ文庫JA
  購入:2012/08/29 読了:2012/09/01 

 前巻の直後から続く話。

 太陽系外から来た《穏健な者(カルミアン)》の超技術を得た《救世群(プラクティス)》は、ロイズ非分極保険社団が主導する太陽系社会に対して、激烈に暴力的な手段による攻撃を始めてしまいます。
 手段の一つは、物流に紛れて太陽系中に頒布・潜在させた、恣意的に発動可能な「昔の冥王斑」。もう一つは、軍事宇宙船団を使った地球襲撃。

 《救世群(プラクティス)》たちはイサリを含む全員が、《穏健な者(カルミアン)》の超技術によって、圧倒的な白兵戦能力を持つ「硬殻化(クラストライゼーション)」を受け、変身してしまい。
 ロイズは、ダダーの「敵」の意志を受けた人々が管制する組織であることが提示され。

 超技術を伺わせる軍事力と「昔の冥王斑」で、《救世群(プラクティス)》は太陽系社会を強圧的に支配しようとし、人々は膝を屈し始めます。

 ところが終盤に、異質な知的存在である《穏健な者(カルミアン)》と地球人類の、悲劇的/喜劇的な「相互理解の深刻な不足/暗黙の前提は通用しないことをどちらも知覚していない齟齬」から生じた事態が《救世群(プラクティス)》に衝撃を与え混乱を生じます。

 また、イサリは偶然から、《穏健な者(カルミアン)》の超技術を使えば、《救世群(プラクティス)》の存在意義の消滅・解消が可能なことを知ります。

 ロイズは《救世群(プラクティス)》の太陽系支配への対抗策(?)としてドロテア・ワットを起動し、次に続きます。

 …「昔の冥王斑」は、小包爆弾や病原体入りダイレクトメールやネット・ウィルスの、空想科学版でしょうか。一番の「空想」は、仕掛けた側が好き勝手に発動可能な点、かと。

 《救世群(プラクティス)》/イサリ、ロイズ・MHDとドロテア・ワット/アイネイア、光帆式の恒星間探検船ジニ号/ミゲラ、パナストロ共同体オルバース盆地の羊飼い/メララ、独立居住者・SCSP・ビーバー、辺りが要でしょうか。
 …「昔の冥王斑」の仕掛けに対抗可能な人々は、独立居住者・SCSP・ビーバーくらい、のような。
 もちろん、ダダー、オムニフロラ、《恋人たち(ラバーズ)》、《穏健な者(カルミアン)》、《酸素いらず(アンチ・オックス)》、そして、その他の人々、の動向も。

 *** 2012.09.04 追記

 連想したものを幾つか。
 ダダーは転輪王だろうか、オムニフロラは『シ』だろうか、と、光瀬龍『百億の昼と千億の夜』を。
 「硬殻化(クラストライゼーション)」からは、フレデリック・ポール『マン・プラス』や、『仮面ライダー』を嚆矢とする改造人間の物語を。


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