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1 定点設置型軌道塔 

 地上の一点に下端を固定する方式の軌道塔について、です。

 ・その1
 静止衛星軌道を基点に、上下に塔部を伸展。
 建造中(建造開始時?)に、上端には「重し」となるもの(建設材料供給源…捕獲した彗星/小惑星など)を付加。下端は地上に固定。
 アーサー・C・クラーク『楽園の泉』ハヤカワ文庫SF、キム・スタンリー・ロビンスン『レッド・マーズ』創元SF文庫、田巻久雄『武雷電 BURAIDEN1』白夜書房、等に登場。
 なにもないところに軌道塔を1基だけ建造する場合、この方式が採られることが多い様に思えます。
 塔部の全長は、建造する惑星・衛星の質量(重力の大きさ)と自転速度(静止衛星軌道高度)に左右されます。
 静止衛星軌道高度とは、自転の赤道上で、その高度での軌道角速度が、惑星・衛星の自転角速度と一致する高度を言います。地球の場合は中心から約42,400km(惑星表面から約36,000km)です。火星の場合は中心から約20,100km(惑星表面から約16,700km)です。
 この方式の軌道塔を地球(と同等規模の惑星・衛星)に建造しようとすると、塔部の建材に非常な強度が必要です。これが、この方式の軌道塔の、地球上での実現を難しいものにしている最大の要因と言えるでしょう。

 ・その2
 地上を基点に、衛星軌道高度まで塔部を伸展。
 麻宮騎亜『サイレント・メビウス』角川書店 など。
 軌道塔という言葉の「塔」から連想されるイメージだと、この方式になるのでしょう。
 もっとも、いわゆる[ビルディング]的な「塔」では、地球の赤道上空3万6千キロの高度に至るものの建造には、かなりの工夫が必要だと思えます(金子隆一『新世紀未来科学』八幡書店 には、この方式の「塔」も、遠心力で自重による圧縮負荷を軽減することで実現可能である、という記述がありますが)。
 私が知っている限りでは、ロバート・L・フォワード『SFはどこまで実現するか』講談社BLUE BACKS のスペース・ファウンテンが、現時点では実現可能な手法だと思います。
 スペース・ファウンテンは、「上端にボールを乗せた噴水」のイメージで、「電磁的に速度制御された物質の流れ」(=投射体システム)が、噴水の水に相当します。「上端に乗ったボール」が、たとえば軌道ステーションになる訳ですね。ただ、噴水と違い、スペース・ファウンテンでは、投射体システム内の物質流は、全体が閉じたループを形成することになります。また、単純な一本きりの物質流のループではなく、複数の物質流によって、十分な安定性や安全性を得ることになります。

 ・その3
 衛星軌道上に軌道環を造り、それを土台に地上へと塔部を伸展。
 木城ゆきと『銃夢』集英社、タツノコ・プロ/作/杉田篤彦・谷崎あきら 画/鈴木典孝(スタジオOX)『宇宙の騎士テッカマンブレード』TV/ビデオ/角川書店 がこの方式と思われます(環と塔と、どちらの建造が先なのかは不明ですが、環部の高度や塔部の全長から考えると、環部の建造が先のように思われます)。
 その1方式に比べると、環部の軌道高度を低くすることができるため、塔部の建材に求められる強度は、現実の現在に存在する材料が使用可能なレベルです。全体の規模も、(意外にも?)その1方式と同程度です。
 その1方式と違って、軌道環の、惑星/衛星との相互の位置関係の維持に、何らかの能動的な方策が必要とされる点が、特徴として挙げられるでしょうか(軌道環から下ろした塔部に錨の機能を持たせることは当然ですが)。その2で挙げたスペース・ファウンテン(の基幹技術である[投射体システム])が、その3でも有効な方式だと考えます。

 …と言うことで、私はスペース・ファウンテンに多大な期待を寄せてます。