野尻抱介 ...last update 2012.07.24
[上]に戻る
『ふわふわの泉』ファミ通文庫,ハヤカワ文庫JA
購入:2001/04/21,2012/07/11 読了:2001/04/23,2012/07/12
△
▼
▽
「こういう題材のSFが、まだ書けたのか!」という驚きが素敵な、発明発見モノのSF。
あれよあれよという間に、高校生の主人公は[時の人]となり、世界と時代を席巻します。それはもう小気味良く気持ち良く。
世界は[ふわふわ]に浮かれ騒ぎ、時代は[ふわふわ]と浮かび出します。もっとも[人類社会の多大な慣性]は一朝一夕で軽くなるようなモノではなく、そこかしこに軋轢や歪みを内包し続けますが。
それでも、主人公は最終的に[ふわふわ]と宇宙を目指し、昨日までと決定的に違う明日への「手掛かり」を得ます(でも、その「手掛かり」は、[ふわふわ]でなくても手に入ったかもしれない要素なのが
残念な点(2012.07.24 更新)個人的に痛し痒しを感じる点、だったりしますが…)。
***(2012.07.24 追加)
上記の「手掛かり」は、A・C・クラーク『楽園の泉』の展開をなぞったが故の道具立て、と聞いた/目にしたのは、だいぶ昔だったでしょうか。
[ふわふわ]は、炭素と窒素で出来てます。その内側に真空を含み、大気に浮かびます。しかし宇宙は、水素〜ヘリウムと真空が優勢です。…彗星には酸素、窒素、炭素、他が、ある程度ありそうですが(参考:グレゴリイ・ベンフォード&デイヴィッド・ブリン『彗星の核へ』、等)。
[ふわふわ]は、大気の上面に浮かび出るまでの道具には使えますが、その先の宇宙空間での用途・用法が見えない・提示されないままに終わったことも、上記の 痛し痒し を感じた原因だったのかもしれません。あるいは、地上から宇宙へふわふわと向かうまで、が、この物語だったのかも、とも。
『太陽の簒奪者』早川書房
購入:2002/05/02 読了:2002/05/05
△
▲
▽
▼
白石亜紀という女性を主人公として、人類とは異なる知的生命体との遭遇を描いた、ハードSFです。
高校二年生の冬、亜紀は学校の天文部の設備である反射望遠鏡で、水星の太陽面通過の観測を行い、そこで、水星の異状に気付きます。亜紀が見たものは、水星の赤道から、異星文明のものと思われる構造物が、宇宙空間へと伸びている光景でした。構造物は、水星の資源から造られたもので、水星の公転軌道上に伸展して薄い帯状のリングを構成して行きます。
空前の出来事に世界が揺れ始める中で、亜紀は、そのリングに魅了され、研究者への道へと進みます。
黄道上に構築されたリングは、地球への日照を遮断し、地球は急速に冷えてゆきます。追い詰められた人類は、リングを破壊すべく宇宙船を送り出します。その乗員の一人に、亜紀は選ばれます。
リングを調査した亜紀たちはその正体を知り、そして…というのが、本書の第一部のあらすじです
第二部では、水星にリングを造った存在が乗っていると思われる宇宙船の、太陽系への到来と、それを迎える人類の対応、そして、異質な二つの知的生命体の接触が語られます。
この世界を見る視点が、冷静な主人公のものだけであるが故でしょうか、物語の展開は、どちらかと言えば淡白な印象です。そのため、登場人物の間の情緒的な葛藤や衝突に惑わされることなく、異質な知性と人類の遭遇に関心が集中できる、と思えます。
『沈黙のフライバイ』ハヤカワ文庫JA
購入:2007/02/27 読了:2007/02/28
△
▲
元気が出るハードSF短編集、でした。
以下、個々の作品について、私が思った事々を。
「沈黙のフライバイ」
『赤い小人』が視線を向けたあれやこれやは、『赤い小人』の送り主にとって、どれだけが既知でどれだけが未知だったのでしょう。それらが既知となるまでに、どれだけの試行があったのでしょう。
そして、私達は?
「轍の先にあるもの」
この作品を組み立てる時に、火星往還船の空間探査能力に「穴」を設けるに当たって、作者氏は、もしかして大いに悩んだりされたのでしょうか?
「片道切符」
リアルなフィクション、と言う意味で、この短編集の中では、一番「ありそうで・なさそうな」話、なのかも。
「ゆりかごから墓場まで」
C2Gから連想したのは、ジョン・ヴァーリイ《八世界》シリーズ/『へびつかい座ホットライン』ハヤカワ文庫SF の「リンガー」と、ルイス・ウォルフ『海底旅行』角川文庫 の「ホメオスタット」でした。
この作品を読み終えて、物語の起承転結で言えば、起と承の切片だけを切り取って見せられた印象を持ってしまいました。私は、もっとこの物語の行く先を知りたいようです。
「大風呂敷と蜘蛛の糸」
『ふわふわの泉』ファミ通文庫 の別解? みたいな。
上端へ