林譲治 ...last update 2008.02.12  [上]に戻る

 『ウロボロスの波動』早川書房
 『ストリンガーの沈黙』早川書房
 『進化の設計者』早川書房

『ウロボロスの波動』早川書房
   購入:2002/07/28 読了:2002/07/30 

 2100年に、太陽系の外縁、数十天文単位に、火星ほどの質量を持った小型ブラックホールが発見され、カーリーと名付けられた。
 観測から、カーリーは太陽との衝突コースに乗っていることが判明する。
 2120年、人類はカーリーに人工の降着円盤を付加し、天王星の衛星にすることで、カーリーを太陽系全域へのエネルギー供給源として利用する計画に着手した。

 地球から太陽系全域へと生活圏を広げてゆく人類を想像する、SFの真骨頂とも言えるテーマの作品です。
 最初の作品では語り口や構成・展開に生硬さが感じられました。が、連作短編として、個々の話が適度に読み易い長さで纏められていて、それぞれの内容もバラエティに富んでいたこともあり、興が冷めることもなく読了できました。
 あとがきでは、この本で描かれた世界設定の物語には続編の構想があるらしいことが示されています。
 ぜひ、精力的に続きを世に出して欲しいと思います。


『ストリンガーの沈黙』早川書房
   購入:2005/11/16 読了:2005/12/10 

 P212辺りを読み進めながら、「興味深く判り易い、上質の論文発表を聴講している感じ」という文言を思い付きました。
 地球圏によるAADDへの武力侵攻、異星人(?)ストリンガーの太陽系への接近、AADD崩壊の危機。
 感情的な盛り上げよりも、理知的な説得力を優先しているような描き方・構成、のように思えます。それはまた、作中の地球圏の振る舞いとAADDの対応とに符合しているようにも思えたりして。
 最後に明かされる「太陽系世界の現状」は、じわじわと重く響いて来ています(現在進行形 ^^;)。観測者の観測が、観測対象と観測者自身に影響を及ぼし、観測する前とは違ったものにしてしまう、みたいなイメージで(;´Д`)。


『進化の設計者』早川書房
   購入:2007/10/03 読了:2008/02/11 

 「阪神北市」パートの半ばで連想したのは、ヴァーナー・ヴィンジ『遠き神々の炎』東京創元社/創元SF文庫 の原住生物、グレッグ・ベア『ダーウィンの使者』ソニーマガジン社、チャールズ・シェフィールド『ニムロデ狩り』東京創元社/創元推理文庫、他。

 現代科学の知見を基にした空想的な演繹で得た発想を核とするSF、ハードSFとしては、この作品は現実寄りだと思えます。

 現実の現在から半歩〜数歩(?)進んだ「そうなるかもしれない人類世界」の切片、と言うか、過去から未来へと流れる時間の一断面、と言うか。SF的な虚構の側面を抑制した結果、変容する人類世界、という発想は具現化・具象化というところまで描写・展開されず、そこにむかう契機・助走の始まりの示唆、なレベルで終わっている感じなのは、個人的には残念な印象です。

 あるいは、この作品は、ここ何年かの世界を見ての作者氏の「覚え書き」的なもの、な側面があったりするのだろうか、とも思ってみたり。


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