小野不由美 ...last update 2013.07.02  [上]に戻る

『華胥の幽夢 十二国記』講談社文庫
  購入:2001/07/14 読了:2001/07/15 

 書名は、かしょのゆめ、と読みます。
 『魔性の子』新潮文庫 を先触れに、その後、講談社X文庫Whiteheart で刊行が開始され、2001年に入って講談社文庫で「挿絵抜きバージョン」との併存が開始された、《十二国記》シリーズ。
 今回読了したものは、シリーズ本編の「間」を埋める短編集です。
 本編とは独立した短編はもとより、本編に繋がる前日譚や後日譚も、本編を知らなくても読むに耐える内容ですので、この短編集から《十二国記》に入るのも良いかも知れません。
 各編は…
 冬栄(とうえい) :時期的には『黄昏の岸 暁の天』の途中の出来事。泰麒の話。
 乗月(じょうげつ):『風の万里 黎明の空』の後日譚の一つ。芳の恵候の話。
 書簡(しょかん) :『月の影 影の海』の後日譚の一つ。楽俊と陽子の話。
 華胥(かしょ)  :『風の万里 黎明の空』の前日譚、と言えるかな?。才の話。
 帰山(きざん)  :『黄昏の岸 暁の天』の直後くらい?。柳を肴にした利広の話。
…となってます。上で「入門書」と書きましたが、本編を知っていると、更に趣深くなる、のは否定しません(笑)。
 どの話も「良い」のですが、本編とは独立した話と言える「華胥」が、今現在も、色々と考えさせられて、深く心に染みてます。


『丕緒の鳥 十二国記』新潮文庫
  購入:2013/06/27 読了:2013/06/27 

 書名は、ひしょのとり、とかなが振られています。
 この本も、『華胥の幽夢 十二国記』と同じく、シリーズ本編の「間」を埋める短編集でした。

 丕緒の鳥
 時期的には新しく慶王が登極した直後、でしょうか。慶国の儀式の一事・一役を題に、それの準備を整えた(内容を決め作り上げた)官の心情の移ろいを綴ったもの、かと。…さやかな夜明けの藍色の余韻と、等量のほろ苦さが残りました。

 落照の獄
 密か(?)に傾きつつあるらしい柳国で、凶行を重ねた罪人への量刑は死刑か否かを、一人の官吏の思惟を通して考えさせる話。
 (2013.07.02 以下を追記)
 …犯罪を犯し・それを成した自分を厭わず・反省も改心も無く・同じ犯罪を繰り返す、そのような人。現実の無差別殺人者は、もしかしたら、この物語の焦点の人物のような者だろうか、と作者が試行・思考してみたのかもしれない、と思いつつ読み進めました。
 官吏たちの量刑についての思案・問答は、現実の死刑を巡る論を反映しているのだろうか、とも。
 (2013.07.02 以上を追記)
 悪は愚昧なり、と言うべきか否か。悪意・害意の救われなさは、それが「善」を求めず/否定・拒否して、底無しの穴のように周囲の人々を悪意・害意へと引きずり落としてしまうから、のように感じました。
 いにしえの賢者は、そのような人の中に稀に顕れてしまう「悪」を魔と名付け、それと対照するものとして神を見出し・考案し、そうして見出した神の正義を方便に、人の心の一方の極端・邪な悪意を持つ者を魔物と断じたのだろうか、と。魔物と断じることで邪な者を峻別し・社会の「表」から切り離し、そうすることで死刑を恣意的な殺人とは違うもの・別のものと位置付け、人々に納得と安心をもたらそうとしたのだろうか、と。

 青条の蘭
 新王が登極した国で、自然発生(?)した樹木の伝染病への手当てに奔走する話。…十二国の、どこの国でも起こる事、上首尾に終わるか否かは場合によるだろう事、という意味で、国も時期も不詳になっているのかな、と思いました。「むかしばなし」として語られそうな筋立てだ、とも。

 風信
 これも、慶国に新王が登極する前後の頃の話。他の話が人物画な感じとしたら、これは風景画な感じ・素描的な作品、に思えます。


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