アニメーション・片渕須直・アリーテ姫 ...last update 2002.12.23  [上]に戻る

監督・脚本:片渕須直『アリーテ姫』アリーテ製作委員会
  購入:2002/12/21 

 城の塔に閉じ込められて育った姫・アリーテ。しかしアリーテ姫はいつしか、自室から城外へと続く抜け道を見つけ、城下町を散策するようになっていた。そして、教育の賜物か、生来の賢さ故か、城下に生きる人々の一人一人に心があり人生があり、自分も彼らも等しく「人」であることを知ってゆく。

 姫の婿候補となる条件は、遥かな昔に滅びた魔法使い達が残した[宝物]を探し出して持ち帰る事。
 その試練を果たした者達が帰還し、手に入れた[宝物]を王に献上する。
 王の臣下たちは[宝物]を倉庫にしまい込む。[宝物]は、王国の収入源として「異教徒の商人」に売られてしまうらしい。

 [宝物]を持ち帰った婿候補の中の二人が、深夜、アリーテ姫の塔に登ってくる。
 先に侵入した一人は、アリーテ姫に見識の狭さを論破され、後の一人は、贈り物として持参した薔薇が、城の花壇から手折ったものであることを見抜かれて退散する。

 幼い姿の女魔法使いが、姫が見つけた抜け道を辿って、姫の自室に現れる。その魔法使いは、魔法力の源である水晶(?) を失っていて、姫の城にあるかもしれないと思い訪れたのだった。しかし、魔法使いの言う水晶に姫は心当たりがなく、魔法使いは落胆して去って行った。
 去り際に交わした会話に触発され、姫は城を出る決心をし、実行に移す。

 飛行機械に乗った壮年(?) の魔法使いが城に降り、姫を妻に求めてきた。
 魔法使いは甘言を弄して王の臣下たちに姫との婚姻を認めさせる。
 婚礼の支度に向かった侍女達が、姫の不在を知り、王宮は騒然となるが、その場に、城下町の出入りを監視する兵士によって当のアリーテ姫が連行されてきた。
 魔法使いは、姫の暴挙の原因を[呪い]と断じ、姫に魔法を掛け、外見こそ美しいものの、積極的な意思を持たない従順なだけの存在にしてしまう。
 姫は改めて婚礼の支度が整えられる。が、その支度をする者達の中に、幼い姿の女魔法使いがまぎれ込んでいた。彼女は水晶の探索を諦め、人としての生を全うする、と姫に告げると、[三つの願いをかなえる指輪]を残して城下町へと消えて行った。

 支度の終わったアリーテ姫を連れ、魔法使いは飛行機械で自分の居城に戻ってゆく。

 魔法使いの居城は、荒れ果てていた。
 今回の行動は、占いで「アリーテ姫が魔法使いの寿命を縮める」と出たので、姫を虜にする事で占いの結果を実現させまい、と考えてのものだった。
 姫は地下室に幽閉される。従順なだけの姫は、脱出を思う事もなく、その場でただ時を過ごすだけだった。

 崩れかけた城(砦跡?)で、魔法使いは何をするでもなく暮らしていた。
 城は、荒野の中にある岩山の中腹にあり、裾野にはささやかな村があった。魔法使いは、村に魔法で水を供給し、その代わりに食事の世話をさせていた。その、村の食事係は三代目になっている。

 ある日、食事係の女がアリーテ姫に話し掛けたことが引き金になり、姫に掛かっていた魔法が解ける。

 そして、元の姿と心を取り戻した姫は動き出し…

 ***

 いわゆる娯楽作ではありません。といって、難解な作品でもありません。
 常に自らの指向するものへ向かおうとするアリーテ姫の、その真摯さに、自分も少しづつでも「求めるもの」に向かって歩き出してみようか、と思わせてくれる、そんな作品です。

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 2002.12.23・記。
 この作品を観終わって、実は、何かモヤモヤしたものが残っていました。
 そのモヤモヤを言葉にすると「後半、全く触れられなかったアリーテ姫の故国は、その後どうなったのだろう」という疑問でした。
 物語の中盤、アリーテ姫は、自らが求める「何か」を目指し、全てを捨てて旅立とうとします。
 姫の家出。それは、王国にとって、王族が行ってはならない罪悪ではなかったでしょうか。
 婿候補となる条件に[魔法使いの遺物の持参]という難題を課すほどに奉っていた姫を、家出が発覚した途端、得体の知れない魔法使いに下賜してしまったのは、魔法使いが約束した「助力」への期待もあったのでしょうが、それ以上に、姫の罪に対する王国からの罰ではないか、と思えるのです。魔法使いが姫を連れて行くに任せたのは、実質的な追放ではなかったか、と。
 それ故に、姫には一度、故国に戻って欲しい、と思っています。自らの行動の影響を、その目で見て欲しい、と。


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