アニメーション・鋼の錬金術師 劇場版 ...last update 2005.07.24 [上]へ

監督:水島精二、原作:荒川弘『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』劇場版「鋼の錬金術師」製作委員会 松竹・感想

 以下の文章は、映画『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』松竹 の感想を完全ネタバレで記述しています。
 ネタバレ不可な方は見ない方が良いと思います。

 鑑賞:2005/07/23 

 TV版『鋼の錬金術師』から直接に続く物語。

 頑迷固陋な選民思想が深く静かに蔓延しつつある、20世紀前半の不穏な欧州ドイツに生きる「異世界に帰りたい者」エドワード・エルリック。
 使えない知識の死蔵と、帰還手段の暗中模索に、因って立つ基盤と現実感を持てないエド。「弟代わり/兄役の相手」アルフォンス・ハイデリヒの手伝いにも身が入らず。
 触れた者の記憶を読む、不思議な女性ノーア。偶然、怪しい男たちから救った彼女をエドが手元に置いたのは、彼女が流浪の/故郷を持たない者(ジプシー)だったから?

 プライド/ブラッドレイに酷似した男(フリッツ・ラング)と知り合いエンヴィーと再会し、エドの周囲に[錬金術世界]の気配が満ち始め。敵城の床に見つけた不完全な錬成陣に、つい手を加えて自嘲した時、発動しない筈の錬金術が働き。
 二つの世界が繋がる。それはエドが待ち望んだこと、のはずが。
 異世界に残してきた弟、アルフォンス・エルリックの健在を知り、それで満足だ/それ以上は望まない、と言うエドだったが、事態は暴走を始め、それぞれの世界に生きる者たちの、想いと思いと思惑が混淆して、誰も望まない混乱と破壊を現出させる…夢に見るほどに求めた場所で。

 そして最後に求めるものを得たのはアルフォンス・エルリック。

 う〜ん。
 アルフォンス・エルリック、キミは「生物としての人間」として異常だ(核爆)、と思った終わり方でした。エドワード・エルリックのパートナーとして一生を終えるだろうとしか思えない状況に迷わず自分から飛び込んで行って、それで「男」と言えるノカ〜ヽ(`Д´)ノ、と。

 そして、ウィンリィ・ロックベルの報われなさは、いったい。エド側のヒロイン的なノーアの扱いも不完全燃焼な感じですし。今回、女性キャラで僅かなりとも報われたのはホークアイ中尉くらいでしょうか。

 この物語のヒーローはエドワード・エルリック、ヒロインはアルフォンス・エルリックですカ〜?ヽ(`Д´)ノ と思ってしまうことですよ。

 閑話休題(よまいごとはこれくらいで)。
 もっとも、以下も不満や文句、なんですけど〜(;´Д`)。

 [錬金術世界]が、世界に瑕瑾を付けたホーエンハイムに関わる一切を完全に始末した話、なのかもしれないと今、思い付きました(核爆)。
 TV版でのダンテ一派の壊滅後に残っていたホムンクルスの残滓。ダンテの弟子。ホーエンハイム自身。ホーエンハイムの血縁者たち。彼らが手を触れ、作り、育て、残した・残った・残された全て。
 その一切合切を、今回の映画での騒動の内に、死亡させ消費させ自滅させ破壊させ、次々と消去し。対象でありながら他の対象の消去に貢献した主人公たちに対しては、あるいはそれが対価なのか、消去はせずに異世界への完全な放逐で終わらせて。
 [現実世界]は、ほぼ無傷。[錬金術世界]は、多大な被害と影響と損失と喪失。それもまた、[錬金術世界]が今回の騒動のために支払った対価、みたいな。

 [錬金術世界]の人々は、今回は被害者/当事者ではありますが、ほぼ騒動に巻き込まれた部外者に近い扱いだったので、マスタング大佐以下の軍人さんたちは、元気に戦って無事にエンディングを迎えた、のは良かったです。

 物語の構成は、整然とは言えませんが矛盾とか破綻とかは私には見えず、個々のシーンには「おおっ」と感嘆したり楽しんだりしたものも多く。
 でも、全体を貫くもの…主題・理念・目標…が足りない、みたいな、統合されていない、ツギハギ細工のいびつな塊に、この作品は私には見えてしまいました。
 で、ふと、上述の[錬金術世界の自浄作用]説とか思い付いたりした訳ですが…まあこれは、スタッフが「どうせだからTV版で残ってるヤツを使い切ってしまおう」とか思ってやっちゃったこと、ではないかな、と。それを作品世界から見れば、上述のような解釈が出来るのではないか、ということで。

 冒頭の、[錬金術世界]での異端者「原子物理学者」とのスチームパンク(いっそスチ○ムボ○イと言い切っていいデス?)風味な活劇が、始めは本筋には無関係な単なるツカミかあ、と思わせておいて、後で、実は今回の騒動の成り行きにも関っていない訳じゃなかったんだよ、と明かされた時には、へぇ、とボタン一回くらいは押してもいいかな、と。

 ノーアの超能力…説明が一切ないのは、開き直りでしょうか? もう少し年齢を幼くして(アルと同等くらい)、エッカルトの父親がジプシーとの戯れに産ませた子供で、その神秘能力を知った姉が引き取り道具として使おうとしていた、みたいな因縁話とか欲しかった気が。

 また最後の方の、[現実世界]のヒューズの扱いは、取ってつけた感じがして嫌です。

 あと、今回の敵ボス、[現実世界]のデートリンデ・エッカルトは、[錬金術世界]のダンテ(オリジナル)と対応する存在なのかも、とか思ったりしました。もっとも、TV版で姿が出てたようにも思いますが、記憶に残ってません。ネット上でも見つけることが出来ませんでした(^^;。

 最後に。
 怒髪天、に感じたことが一点あります。
 あの人を遺影にしたこと、です(「完全ネタバレ」を謳ってますが、敢えて伏せます)。
 病床にある、程度で止めておいて欲しかったです。
 クライマックスの1シーンを成立させるため「だけ」に、そういう「処理」をしないで欲しい、です(怒)。